「キーエンス 年収」と調べると、2,000万円台前半から2,400万円台まで、記事によって数字が違います。どれが正しいのでしょうか。

答えは、どれも間違いではないことが多いです。違う期の数字を、同じものとして並べているからです。この記事では、有価証券報告書の5期分を原本で確認し、「何の平均か」を分けたうえで、年収を決める評価の仕組みを整理します。

5期の平均年間給与

キーエンス(提出会社=単体)の、有価証券報告書の「従業員の状況」です。各期3月20日現在です。

期平均年間給与前期比平均年齢平均勤続年数
第53期(2022年3月20日)約2,183万円—36.1歳12.5年
第54期(2023年3月20日)約2,279万円+4.4%35.8歳12.1年
第55期(2024年3月20日)約2,067万円−9.3%35.2歳11.5年
第56期(2025年3月20日)約2,039万円−1.4%34.8歳11.1年
第57期(2026年3月20日)約2,178万円+6.8%35.0歳11.3年
キーエンスの平均年間給与の5期の推移
キーエンスの平均年間給与の5期の推移

前期比は、原本の円単位の数字から計算したものです(例:第55期は(20,670,730−22,793,975)÷22,793,975=−9.3%)。

記事によって数字が違うところの多くは、どの期を見ているかの違いで説明できます。2,039万円、2,067万円、2,178万円、2,183万円は、すべてこの表の期の数字です。一方、記事によっては2,400万円台の数字も見かけますが、この5期の有報には、その数字はありません。出典の確認が必要です。

第54期から第55期にかけて、平均年間給与は約9.3%下がりました。有報の「従業員の状況」には、増減の理由の説明はありません。

岩田の見方は、こうです。キーエンスの給与は基本的に業績連動で、おそらくその変動分が減った。つまり、営業利益に対して、人の伸びが大きかったのだろう、と言います。実際、単体の従業員数は、この期に2,788人から3,042人へ約9.1%増えています。

これは岩田の推測で、会社が理由を公表しているわけではありません。ただ、有報の数字は、この見方と矛盾しません。

連結第54期(2023年3月)第55期(2024年3月)変化
営業利益498,914百万円495,014百万円−0.8%
従業員数10,580人12,286人+16.1%
1人あたり営業利益(概算)約4,716万円約4,029万円−14.6%
第54期から第55期:営業利益は横ばい、従業員は16%増
第54期から第55期:営業利益は横ばい、従業員は16%増

営業利益はほぼ横ばいで、従業員は16.1%増えました。1人あたりの営業利益は、約15%下がっています(営業利益を従業員数で割った概算。式:498,914百万円÷10,580人、495,014百万円÷12,286人)。

有報の役員報酬の欄には、報酬の基準となる従業員(組織責任者)の年収が営業利益に連動し、業績連動の部分は概ね60〜70%と記載されています。

ただし、毎年の営業利益とぴったり連動しているわけではありません。 第56期は、単体の営業利益が前期より増えているのに、平均年間給与は1.4%下がっています。また、この期は平均年齢と勤続年数も下がっていて、若手の比率が上がった影響と、業績連動の影響を、有報の数字だけでは分けられません。会社が賞与の増減の理由を公表しているわけでもありません。

この数字は、何の平均か

この数字は、読む前に次の点を押さえてください。

  • 提出会社(単体)の全社員の平均です。連結全体ではありません。
  • 賞与と基準外賃金を含む平均です。
  • 営業職だけの数字ではありません。管理職や、営業以外の職種を含みます。
  • 平均年齢は35歳、平均勤続年数は11年台です。長く働いている社員を含む平均です。

だからこの数字は、中途で入る人の年収ではありません。 中途入社の年収は、公開されていません。この記事では、確かめられない金額を「中途の年収」としては書きません。

年収を決めるのは、会社の名前ではなく、評価の仕組み

高い平均年収を見ると、「キーエンスに入れば高年収」と受け取ってしまいがちです。でも、年収を左右しているのは、会社名よりも何をどう評価するかです。

岩田の見方では、キーエンスの評価は次のように変わっていきます。

段階評価の中心
入社してすぐ行動量と成果がおおむね半々
グレードが上がる成果の比率が上がっていく

行動量を評価に入れる会社は多くなく、かなりキーエンスらしい設計だというのが岩田の見方です(詳しくはキーエンスは激務なのか)。同じ営業でも、個人インセンティブを入れる会社もあれば、入れない会社もあります。

年収との結びつきは、賞与にあります。岩田によると、グレードが高いほど、賞与の配分比率が高くなります。 営業は基本的に賞与の割合が高いため、上のグレードにいくほど、成果の出方が年収に反映されやすくなります。

※本稿の比率は、岩田がキーエンスに在籍していた当時の実務に基づく傾向です。現在の同社の運用を示すものではありません。

あなたの年収を、どう考えるか

高年収を目指すときに見るのは、会社の名前ではなく、次の3点です。

  1. どの数字を見ているか。 全社員の平均か、提示額か、実績か。期はいつか。
  2. 評価は、行動量と成果のどちらを見るか。比率はどのくらいですか。 入社してすぐと数年後で、比率は変わるか。
  3. いまの自分の営業は、どの仕組みで評価されているか。 行動量でも成果でも、いまの評価の仕組みを言葉にできると、「自分の年収が何で決まっているか」が見えてきます。

キーエンスの高年収は、評価の仕組みを理解するための一例です。同じように成果連動が大きい給与体系を持つ業界は、ほかにもあります(別の記事で整理します)。

まとめ

  • キーエンスの平均年間給与は、5期で約2,039万〜2,279万円。記事の数字の違いは、先にどの期を見ているかで説明できる
  • この数字は、全社員(単体)の平均。営業職だけでも、中途入社の年収でもありません
  • 年収を左右するのは、会社名よりも評価の仕組み(行動量と成果の比率)
  • 自分の年収を考えるには、数字の種類・評価の比率・いまの評価の仕組みの3点を確かめる
補足:数字は、キーエンスの第53〜57期有価証券報告書(提出会社単体、各期3月20日現在)に基づきます。現在の同社の制度や数字を示すものではありません。