「キーエンス 離職率」と検索すると、「10%前後」のような数字が、出典の記載なしで書かれている記事があります。でも、その数字の出どころを、自分で確かめた人はどれくらいいるでしょうか。

この記事では、キーエンスの離職率が、公式の資料にどこまで出ているのかを整理します。そのうえで、有報の数字から「言えること」と「言えないこと」を分けます。

公式資料に、離職率はどこまで出ているか

資料離職率の記載
有価証券報告書(第53〜57期の5期分)数値の記載なし。第57期のリスク項目に「定着率の向上に努めております」という文言があるだけ。数値も定義もない
サステナビリティ関連の公式資料・公式サイト「社会」ページ数値の記載なし
新卒採用サイトのFAQ「離職率もここ5年間でみると5%前後で推移しています」という記載がある。定義と算定期間の終点は書かれていない。更新日も記載なし

つまり、定義つきの離職率は、公式には出ていません。出ているのは、新卒採用のFAQの「5%前後」という一文だけです。同じFAQには、「直近10年以内に新卒で入社した人が約半数」という記載もあります。

「5%前後」は、何を指すのか

この数字は、読む前に次の4点を確かめる必要があります。公式はFAQの中で、どれも書いていません。

確かめる点なぜ重要か
自己都合の退職だけか、定年を含むか定年を含めると、数字の性格が変わる
単体か、連結か従業員数が大きく違う(単体約3,300人、連結約12,800人)
対象の期間の終点「ここ5年」がいつまでの5年か分からない(更新日の記載もない)
新卒・中途・全社員のどれか入社3年以内の離職率と、全社員の離職率は別物

同じ「5%」でも、定義が違えば別の数字です。公式の一文は参考にしつつ、これだけで「辞めない会社」と断定しない。これがこの記事の立場です。

有報の数字から、言えること

有価証券報告書には、こういう数字があります(提出会社=単体。各期3月20日現在)。

期従業員数(単体)平均年齢平均勤続年数
第53期(2022年3月20日)2,599人36.1歳12.5年
第54期(2023年3月20日)2,788人35.8歳12.1年
第55期(2024年3月20日)3,042人35.2歳11.5年
第56期(2025年3月20日)3,205人34.8歳11.1年
第57期(2026年3月20日)3,306人35.0歳11.3年
キーエンスの単体従業員数と平均勤続年数の推移
キーエンスの単体従業員数と平均勤続年数の推移

ここから言えるのは、次のことだけです。

  • 単体の従業員数は、第53期から第57期で2,599人から3,306人に増えた(「(3,306−2,599)÷2,599」で約27.2%増)。
  • 平均勤続年数は、12.5年から11.3年に下がった。平均年齢も、36.1歳から35.0歳に下がった。
  • 平均勤続年数はいま在籍している人の平均です。辞めた人は含まれません。

有報の数字から、言えないこと

逆に、次のことは有報からは言えません。

  • 「離職率が何%か」「新卒を3年以内に辞める割合」「自己都合退職の割合」は、有報からは分からない。
  • 平均勤続年数の低下を、「辞める人が増えた」と読むことはできない。新しく採用した人が増えれば、辞める人が増えなくても、平均勤続年数は下がります。従業員が27%増えているので、この動きを「離職の増加」と読むのは無理があります。
  • 平均勤続年数が11年あることを、「辞めない会社」の証拠にすることもできない。平均値なので、どの年次で辞める人が多いかは見えません。

岩田が在籍していた当時、辞める人の理由はさまざまでした。なかなか結果が出なくて辞める人もいれば、結果は出ていても、さらに上を目指したいという理由で辞める人(岩田自身もこのタイプです)も、少数ですがいました。

理由はひとつではない、というのが現場の実感です。だから、離職率の数字だけで「辞めやすい会社」「辞めない会社」と決めることはできません。

「離職率」の数字を見つけたときの、確認の仕方

「キーエンスの離職率は◆◆%」と書かれた記事を見つけたときは、次の3つを確かめてください。

  1. 出典が書いてあるか。 「公式発表」とだけ書いてあって、リンク先がない記事は、確かめようがありません。
  2. 公式の一次情報まで辿れるか。 今回のように、採用FAQや有報に辿り着ける記事と、伝聞表現(「と言われている」)だけの記事では、信頼度が違います。
  3. 定義が書いてあるか。 対象は新卒か全社員か、自己都合か、期間はいつか。定義がない数字は、比べられません。

この確認は、キーエンスに限らず、転職先候補の会社を調べるときにも使えます。面接で直接聞けば、なお確実です。

  • 「離職率は、どういう定義で算出していますか」
  • 「入社3年以内の方の定着率はどのくらいですか」
  • 「どの年次で辞める人が多いですか」

辞める理由は、評価の仕組みとも結びつきます(キーエンスは激務なのか)。

まとめ

  • 定義つきの離職率は、公式には出ていない(有報・サステナ資料に数値なし。採用FAQに「5%前後」という一文のみ)
  • 「5%前後」は、定義・期間の終点・更新日が不明。参考に留める
  • 有報で言えるのは、従業員数が27.2%増え、平均勤続年数が12.5年から11.3年に下がったことまで
  • 勤続年数の低下を「離職の増加」と読むことは、採用増でも同じ動きになるためできない
  • 離職率の数字は、出典・一次情報・定義の3点を確かめる
補足:数字は、キーエンスの第53〜57期有価証券報告書(提出会社単体、各期3月20日現在)と、同社の新卒採用サイトFAQ(2026年10月5日確認)に基づきます。現在の同社の制度や数字を示すものではありません。