「順位は上がっているのに、クリックが増えない」
この半年、BtoBマーケティングの現場でこの報告が急に増えた。多くの場合、担当者は自分の施策を疑う。タイトルが悪いのか、メタディスクリプションか、それともコンテンツの質か。
だが疑うべきはそこではない。順位が上がればクリックが増える、という関係そのものが壊れている。
そして厄介なのは、この変化が「KPIの数字が悪化する」形ではなく「KPIの数字が意味を失う」形で来ることだ。順位というKPIは今も測定できる。上がってもいる。ただ、それが商談につながる保証がなくなった。
1. 何が起きているのか:一次データで確認する
この分野はベンダー発の推計値が乱立していて、数字の出所を確かめずに引用すると足をすくわれる。ここでは調査手法が公開されているものだけを使う。
実際のブラウジング行動:クリックはほぼ半減している
Pew Research Centerが米国成人900人の実際のブラウジング履歴を分析した調査(2025年3月1〜31日、対象68,879件のGoogle検索)によれば、
| 行動 | AI要約が表示された検索 | 表示されなかった検索 |
|---|---|---|
| 検索結果のリンクをクリックした割合 | 8% | 15% |
| 検索後にブラウジングを終了した割合 | 26% | 16% |
さらに、AI要約の中に表示された引用リンクがクリックされたのは全訪問の1%にすぎない。
この調査の価値は、GSCなどの推計ではなく実際の行動ログを取っている点にある。「AI要約に引用されればクリックされる」という期待は、少なくとも現時点のデータでは裏付けられていない。
なお同月時点でAI要約が表示された検索は全体の18%だった。
上位表示の価値そのものが目減りしている
Ahrefsが30万キーワード(AI Overviews表示あり15万・情報系で表示なし15万)を対象に、2024年3月と2025年3月のSearch Consoleデータを比較した調査では、AI Overviewsが表示されるキーワードで1位ページのCTRが34.5%低下した。
1位のCTRは、AI Overviews表示キーワードで0.073→0.026に落ちている。AI Overviewsがなかった場合の予測値0.040と比べて-34.5%、という計算だ。
ただしこの調査には著者自身が明示している限界がある。Search Consoleでは、AI Overviews経由の表示・クリックを他と分離できない。 つまり「AI Overviewsのせいで減った」と厳密に因果を示したデータは、現時点で存在しない。相関の域を出ない点は押さえておきたい。
※後続調査では、2025年12月時点でこの低下幅が58%まで拡大したと報じられている(Search Engine Land等)。ただし原典の測定条件を筆者は未確認のため、本稿では34.5%の方を採用する。
そして2026年5月、初めて「測れる」ようになった
ここが実務上いちばん大きい。
Googleは2026年5月13日、GA4のデフォルトチャネルグループに 「AI Assistant」チャネルを追加した(同年6月7日頃に全プロパティへ展開)。リファラーがAIアシスタントと判定されると、mediumに ai-assistant、キャンペーンに (ai-assistant) が自動で入る。プロパティ側の設定は不要だ。
発表時点ではChatGPT・Gemini・Claudeの3つ、6月時点のドキュメントではDeepseek・Copilot・Grokを加えた5〜6ソースが対象になっている。
つまり2026年6月以降、AI経由の流入は推計ではなく実測できる。ここまで来て初めて、KPIとして置ける状態になった。
2. なぜ既存のKPIが壊れるのか
従来のマーケKPIツリーは、暗黙にこの連鎖を前提にしていた。
検索順位 → CTR → セッション → CV → 商談
この連鎖の強さは「順位が上がればCTRが上がる」という安定した関係に依存していた。だからこそ順位を先行KPIとして追う意味があった。
AI Overviewsが入ると、この最初の矢印が切れる。順位という変数を動かしても、その先が動かない区間が生まれる。
これは私が普段「表面指標」と呼んでいるものの典型だ。測定はできる。動かすこともできる。だが動かしても成果に伝わらない。KPIが形骸化する最も一般的な原因は、目標設定でも運用でもなく、成果とつながっていない指標を主KPIに置き続けることにある。
そして今回の変化が厄介なのは、順位KPIが「悪化して気づかせてくれる」のではなく、「良好なまま無意味になる」点だ。ダッシュボードは緑のまま、商談だけが減る。
3. どう組み替えるか:3層で設計し直す
KPIの組み替えは、指標を足し引きする作業ではない。どの層の指標なのかを整理し直す作業だ。私が普段使っている3層構造に当てはめる。
第1層:中間KPI(何を主指標に置くか)
順位・セッションを主KPIの座から降ろし、以下に置き換える。
| 旧・主KPI | 新・主KPI | 理由 |
|---|---|---|
| 検索順位 | 指名検索数 | AI経由で認知しても、その場ではクリックされない。後から社名・サービス名で検索して戻ってくる動きを捕まえる |
| セッション数 | 純問い合わせ数/資料DL数 | 母数が構造的に減る局面で総量を追うと、施策の良し悪しが判定できない |
| (なし) | AI Assistant経由セッション | 2026年6月から実測可能。今はゼロに近くても、基準値を取っておくことに意味がある |
指名検索を認知施策の効果測定に使う、というのは私がタクシー広告やイベント出稿の評価で以前から使ってきた考え方だが、AI検索の普及でこの手法の射程が一気に広がった。クリックされない接触が増えるほど、指名検索は重要な代理指標になる。
第2層:分析の切り口
総量で見ると変化が潰れる。最低限この2軸で割る。
- クエリ意図別:情報収集クエリ(「〜とは」)と検討クエリ(「〜 比較」「〜 費用」)を分ける。AI要約に食われやすいのは前者で、後者はまだ残る。前者のCTR低下は許容し、後者を守る、という判断ができるようになる
- チャネル別:Organic SearchとAI Assistantを並べて見る。片方が減り片方が増えているのか、両方減っているのかで打ち手がまったく違う
第3層:時間軸
ここを間違えると全部が台無しになる。
- AI Assistant経由セッション:まだ絶対数が小さいため、日次・週次で見ると変動にしか見えない。月次で見る
- 指名検索数:認知施策の反映が遅い。四半期で見る
- 純問い合わせ数:従来どおり月次
新しい指標ほど短い周期で追いたくなるが、逆だ。母数が小さい指標を短い周期で追うと、ノイズを施策の成果と誤読する。
4. 実装:まず3つだけやる
いきなりKPIツリー全体を書き換えると現場が止まる。移行の順序はこうする。
ステップ1:AI Assistantチャネルの基準値を取る(今週)
GA4のレポートでチャネル別セッションを表示し、AI Assistantの数字を記録する。設定は不要で、すでに計上されている。今ゼロに近くても構わない。 基準値がないと、半年後に増えたのか減ったのかが言えなくなる。
ステップ2:主KPIの差し替えを宣言する(今月)
順位とセッションを「モニタリング指標」に降格させ、純問い合わせ数を主KPIに上げる。ここは宣言が要る。降格させずに新指標を足すだけだと、現場は結局これまでどおり順位を追う。
ステップ3:クエリ意図別の分解を月次レポートに組み込む(来月)
情報収集クエリと検討クエリを分けて集計する。ここまでやって初めて「CTRが落ちているのは想定内か、守るべき場所か」が判定できる。
5. 「AI経由」には2つの定義がある:0.7%と20%が同時に成り立つ理由
ここで多くの現場が混乱している論点を整理しておきたい。
先日、某営業支援会社から「問い合わせの20%がAI経由になった」という話を直接聞いた。一方で当社のGA4のAI Assistantチャネルは、全体の1%にも満たない。
この落差は、どちらかが間違っているのではない。測っている対象が違う。
| リファラー計測(GA4) | 自己申告計測(フォーム) | |
|---|---|---|
| 測っているもの | AIツールから直接リンクで遷移した数 | ユーザーがAIで知ったと認識している数 |
| 取得方法 | 自動(設定不要) | 「どこで当社をお知りになりましたか」の回答 |
| 出やすい数字 | 小さい | 大きい |
GA4のAI Assistantチャネルは、リファラーヘッダーがAIアシスタントと判定された遷移だけを拾う。したがって次のケースはすべて取りこぼす。
- ChatGPTやGeminiのアプリ版から開いた場合(リファラーが落ちてDirectになる)
- AIの回答に出てきた社名を見て、あらためてブランド名で検索して来た場合(Organic Searchの指名検索に計上される)
- URLをコピー&ペーストして開いた場合(Direct)
つまりリファラー計測は「AIの影響」ではなく「AIからのリンク遷移」しか測れない。構造的に過少計上になる。
これは新しい問題ではない。メール配信でUTMを付け忘れると流入がすべてDirectに化けるのと、まったく同じ種類の計測エラーだ。成果を生んだチャネルと、クレジットが付くチャネルがずれる。
だからKPIとしては両方持つ
どちらか一方が正しいのではなく、役割が違う。
- リファラー計測(AI Assistantチャネル) … 設定不要で毎日取れる。トレンドの把握に使う。絶対値の正しさは求めない
- 自己申告計測(フォームの認知経路設問) … 母数は小さいが、購買に至った人が何をきっかけと認識しているかを直接聞ける。こちらを商談・受注の評価に使う
実装自体は難しくない。問い合わせフォームに「どこで当社をお知りになりましたか」の選択式設問を1つ足し、選択肢に「ChatGPT・Geminiなどの生成AI」を入れるだけだ。
ただし、測ることにもコストがある
ここで正直に書いておきたい。当社は現時点で、この設問を追加していない。
フォームの入力項目を1つ増やせば、離脱が増えて問い合わせ数そのものが落ちる。計測精度と獲得数はトレードオフの関係にある。 当社は今、リード獲得数を伸ばす局面にある。だから「AI経由が何%か」を正確に知るために問い合わせを減らす、という判断はしないと決めた。
計測は目的ではなく手段だ。測るために事業を縮めたら本末転倒になる。KPI設計の仕事をしていると「まず正確に測りましょう」と言いたくなるが、測定コストが成果を上回る局面では、測らないことが正解になる。
判断基準はシンプルでいい。
| 局面 | 認知経路設問 | 見るべき数字 |
|---|---|---|
| リード獲得数が最優先 | 足さない | リファラー計測のトレンドだけ |
| リードの質・予算配分を議論する | 足す | 自己申告と実測の両方 |
前者から後者に移るタイミングは、「どのチャネルに投資すべきか」が実際の意思決定として立ち上がったときだ。その問いがまだ出ていないなら、設問を足しても回答は使われずに終わる。
なお、両方を測る局面に入ったら、2つの数字の差そのものが重要な情報になる。 差が大きいほど「AIで認知され、別経路で流入している」ことを意味し、その場合に効く打ち手は流入導線の改善ではなく、AIに正しく引用される情報整備のほうだ。
