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マーケティングKPI2026-08-16

AI検索時代のマーケKPI|「順位」と「セッション」を主指標から外す設計

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「順位は上がっているのに、クリックが増えない」

この半年、BtoBマーケティングの現場でこの報告が急に増えた。多くの場合、担当者は自分の施策を疑う。タイトルが悪いのか、メタディスクリプションか、それともコンテンツの質か。

だが疑うべきはそこではない。順位が上がればクリックが増える、という関係そのものが壊れている。

そして厄介なのは、この変化が「KPIの数字が悪化する」形ではなく「KPIの数字が意味を失う」形で来ることだ。順位というKPIは今も測定できる。上がってもいる。ただ、それが商談につながる保証がなくなった。


1. 何が起きているのか:一次データで確認する

この分野はベンダー発の推計値が乱立していて、数字の出所を確かめずに引用すると足をすくわれる。ここでは調査手法が公開されているものだけを使う。

実際のブラウジング行動:クリックはほぼ半減している

Pew Research Centerが米国成人900人の実際のブラウジング履歴を分析した調査(2025年3月1〜31日、対象68,879件のGoogle検索)によれば、

行動AI要約が表示された検索表示されなかった検索
検索結果のリンクをクリックした割合8%15%
検索後にブラウジングを終了した割合26%16%

さらに、AI要約の中に表示された引用リンクがクリックされたのは全訪問の1%にすぎない。

この調査の価値は、GSCなどの推計ではなく実際の行動ログを取っている点にある。「AI要約に引用されればクリックされる」という期待は、少なくとも現時点のデータでは裏付けられていない。

なお同月時点でAI要約が表示された検索は全体の18%だった。

上位表示の価値そのものが目減りしている

Ahrefsが30万キーワード(AI Overviews表示あり15万・情報系で表示なし15万)を対象に、2024年3月と2025年3月のSearch Consoleデータを比較した調査では、AI Overviewsが表示されるキーワードで1位ページのCTRが34.5%低下した。

1位のCTRは、AI Overviews表示キーワードで0.073→0.026に落ちている。AI Overviewsがなかった場合の予測値0.040と比べて-34.5%、という計算だ。

ただしこの調査には著者自身が明示している限界がある。Search Consoleでは、AI Overviews経由の表示・クリックを他と分離できない。 つまり「AI Overviewsのせいで減った」と厳密に因果を示したデータは、現時点で存在しない。相関の域を出ない点は押さえておきたい。

※後続調査では、2025年12月時点でこの低下幅が58%まで拡大したと報じられている(Search Engine Land等)。ただし原典の測定条件を筆者は未確認のため、本稿では34.5%の方を採用する。

そして2026年5月、初めて「測れる」ようになった

ここが実務上いちばん大きい。

Googleは2026年5月13日、GA4のデフォルトチャネルグループに 「AI Assistant」チャネルを追加した(同年6月7日頃に全プロパティへ展開)。リファラーがAIアシスタントと判定されると、mediumに ai-assistant、キャンペーンに (ai-assistant) が自動で入る。プロパティ側の設定は不要だ。

発表時点ではChatGPT・Gemini・Claudeの3つ、6月時点のドキュメントではDeepseek・Copilot・Grokを加えた5〜6ソースが対象になっている。

つまり2026年6月以降、AI経由の流入は推計ではなく実測できる。ここまで来て初めて、KPIとして置ける状態になった。


2. なぜ既存のKPIが壊れるのか

順位→CTR→セッション→CV→商談の連鎖のうち、順位からCTRへの矢印だけが切れることを示した図
順位→CTR→セッション→CV→商談の連鎖のうち、順位からCTRへの矢印だけが切れることを示した図

従来のマーケKPIツリーは、暗黙にこの連鎖を前提にしていた。

検索順位 → CTR → セッション → CV → 商談

この連鎖の強さは「順位が上がればCTRが上がる」という安定した関係に依存していた。だからこそ順位を先行KPIとして追う意味があった。

AI Overviewsが入ると、この最初の矢印が切れる。順位という変数を動かしても、その先が動かない区間が生まれる。

これは私が普段「表面指標」と呼んでいるものの典型だ。測定はできる。動かすこともできる。だが動かしても成果に伝わらない。KPIが形骸化する最も一般的な原因は、目標設定でも運用でもなく、成果とつながっていない指標を主KPIに置き続けることにある。

そして今回の変化が厄介なのは、順位KPIが「悪化して気づかせてくれる」のではなく、「良好なまま無意味になる」点だ。ダッシュボードは緑のまま、商談だけが減る。


3. どう組み替えるか:3層で設計し直す

中間KPI・分析の切り口・時間軸の3層について、AI検索以前と2026年以降の指標の置き換えを対比した図
中間KPI・分析の切り口・時間軸の3層について、AI検索以前と2026年以降の指標の置き換えを対比した図

KPIの組み替えは、指標を足し引きする作業ではない。どの層の指標なのかを整理し直す作業だ。私が普段使っている3層構造に当てはめる。

第1層:中間KPI(何を主指標に置くか)

順位・セッションを主KPIの座から降ろし、以下に置き換える。

旧・主KPI新・主KPI理由
検索順位指名検索数AI経由で認知しても、その場ではクリックされない。後から社名・サービス名で検索して戻ってくる動きを捕まえる
セッション数純問い合わせ数/資料DL数母数が構造的に減る局面で総量を追うと、施策の良し悪しが判定できない
(なし)AI Assistant経由セッション2026年6月から実測可能。今はゼロに近くても、基準値を取っておくことに意味がある

指名検索を認知施策の効果測定に使う、というのは私がタクシー広告やイベント出稿の評価で以前から使ってきた考え方だが、AI検索の普及でこの手法の射程が一気に広がった。クリックされない接触が増えるほど、指名検索は重要な代理指標になる。

第2層:分析の切り口

総量で見ると変化が潰れる。最低限この2軸で割る。

  • クエリ意図別:情報収集クエリ(「〜とは」)と検討クエリ(「〜 比較」「〜 費用」)を分ける。AI要約に食われやすいのは前者で、後者はまだ残る。前者のCTR低下は許容し、後者を守る、という判断ができるようになる
  • チャネル別:Organic SearchとAI Assistantを並べて見る。片方が減り片方が増えているのか、両方減っているのかで打ち手がまったく違う

第3層:時間軸

ここを間違えると全部が台無しになる。

  • AI Assistant経由セッション:まだ絶対数が小さいため、日次・週次で見ると変動にしか見えない。月次で見る
  • 指名検索数:認知施策の反映が遅い。四半期で見る
  • 純問い合わせ数:従来どおり月次

新しい指標ほど短い周期で追いたくなるが、逆だ。母数が小さい指標を短い周期で追うと、ノイズを施策の成果と誤読する。


4. 実装:まず3つだけやる

いきなりKPIツリー全体を書き換えると現場が止まる。移行の順序はこうする。

ステップ1:AI Assistantチャネルの基準値を取る(今週)

GA4のレポートでチャネル別セッションを表示し、AI Assistantの数字を記録する。設定は不要で、すでに計上されている。今ゼロに近くても構わない。 基準値がないと、半年後に増えたのか減ったのかが言えなくなる。

ステップ2:主KPIの差し替えを宣言する(今月)

順位とセッションを「モニタリング指標」に降格させ、純問い合わせ数を主KPIに上げる。ここは宣言が要る。降格させずに新指標を足すだけだと、現場は結局これまでどおり順位を追う。

ステップ3:クエリ意図別の分解を月次レポートに組み込む(来月)

情報収集クエリと検討クエリを分けて集計する。ここまでやって初めて「CTRが落ちているのは想定内か、守るべき場所か」が判定できる。


5. 「AI経由」には2つの定義がある:0.7%と20%が同時に成り立つ理由

リファラー計測0.7%と自己申告計測20%の差が、アプリ版・指名検索・コピペの3経路で失われることを示した図
リファラー計測0.7%と自己申告計測20%の差が、アプリ版・指名検索・コピペの3経路で失われることを示した図

ここで多くの現場が混乱している論点を整理しておきたい。

先日、某営業支援会社から「問い合わせの20%がAI経由になった」という話を直接聞いた。一方で当社のGA4のAI Assistantチャネルは、全体の1%にも満たない。

この落差は、どちらかが間違っているのではない。測っている対象が違う。

リファラー計測(GA4)自己申告計測(フォーム)
測っているものAIツールから直接リンクで遷移した数ユーザーがAIで知ったと認識している数
取得方法自動(設定不要)「どこで当社をお知りになりましたか」の回答
出やすい数字小さい大きい

GA4のAI Assistantチャネルは、リファラーヘッダーがAIアシスタントと判定された遷移だけを拾う。したがって次のケースはすべて取りこぼす

  • ChatGPTやGeminiのアプリ版から開いた場合(リファラーが落ちてDirectになる)
  • AIの回答に出てきた社名を見て、あらためてブランド名で検索して来た場合(Organic Searchの指名検索に計上される)
  • URLをコピー&ペーストして開いた場合(Direct)

つまりリファラー計測は「AIの影響」ではなく「AIからのリンク遷移」しか測れない。構造的に過少計上になる。

これは新しい問題ではない。メール配信でUTMを付け忘れると流入がすべてDirectに化けるのと、まったく同じ種類の計測エラーだ。成果を生んだチャネルと、クレジットが付くチャネルがずれる。

だからKPIとしては両方持つ

どちらか一方が正しいのではなく、役割が違う。

  • リファラー計測(AI Assistantチャネル) … 設定不要で毎日取れる。トレンドの把握に使う。絶対値の正しさは求めない
  • 自己申告計測(フォームの認知経路設問) … 母数は小さいが、購買に至った人が何をきっかけと認識しているかを直接聞ける。こちらを商談・受注の評価に使う

実装自体は難しくない。問い合わせフォームに「どこで当社をお知りになりましたか」の選択式設問を1つ足し、選択肢に「ChatGPT・Geminiなどの生成AI」を入れるだけだ。

ただし、測ることにもコストがある

リード獲得優先の局面では認知経路設問を足さず、質と予算配分を議論する局面で足すという判断基準を対比した図
リード獲得優先の局面では認知経路設問を足さず、質と予算配分を議論する局面で足すという判断基準を対比した図

ここで正直に書いておきたい。当社は現時点で、この設問を追加していない。

フォームの入力項目を1つ増やせば、離脱が増えて問い合わせ数そのものが落ちる。計測精度と獲得数はトレードオフの関係にある。 当社は今、リード獲得数を伸ばす局面にある。だから「AI経由が何%か」を正確に知るために問い合わせを減らす、という判断はしないと決めた。

計測は目的ではなく手段だ。測るために事業を縮めたら本末転倒になる。KPI設計の仕事をしていると「まず正確に測りましょう」と言いたくなるが、測定コストが成果を上回る局面では、測らないことが正解になる。

判断基準はシンプルでいい。

局面認知経路設問見るべき数字
リード獲得数が最優先足さないリファラー計測のトレンドだけ
リードの質・予算配分を議論する足す自己申告と実測の両方

前者から後者に移るタイミングは、「どのチャネルに投資すべきか」が実際の意思決定として立ち上がったときだ。その問いがまだ出ていないなら、設問を足しても回答は使われずに終わる。

なお、両方を測る局面に入ったら、2つの数字の差そのものが重要な情報になる。 差が大きいほど「AIで認知され、別経路で流入している」ことを意味し、その場合に効く打ち手は流入導線の改善ではなく、AIに正しく引用される情報整備のほうだ。


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6. アンチパターン

「AI Overviewsに引用されること」をKPIにする

最も陥りやすい罠。Pewのデータでは、AI要約内のリンクがクリックされるのは全訪問の1%だ。引用は増やす価値があるが、引用数自体は成果と接続していない。中間KPIではなく、あくまでモニタリング指標に置く。

順位KPIを完全に捨てる

検討クエリではまだ順位とクリックの関係が生きている。全部捨てるのは過剰反応で、意図別に扱いを変えるのが正しい。

外部の推計値を自社の判断根拠にする

「CTRが58%下がる」といった数字が独り歩きしているが、測定条件はまちまちで、自社の状況に当てはまる保証はない。自社のGSCとGA4で、自社の数字を見る。 外部データは仮説を立てるために使うもので、意思決定の根拠にするものではない。


7. 自社サイトで実際に起きていること(Exgrowth)

表示回数指数が100→142→123と増える一方、CTRが2.70%→2.32%→2.04%と低下し続けたことを示した図
表示回数指数が100→142→123と増える一方、CTRが2.70%→2.32%→2.04%と低下し続けたことを示した図

参考までに、当社サイト(www.exgrowthjp.com)の実データから比率を開示する。

GSC:表示回数は伸びているのに、CTRは3ヶ月連続で低下

日次平均表示回数(6月=100)CTR平均掲載順位
2026年6月1002.70%約8.6位
2026年7月1422.32%約8.2位
2026年8月(1〜13日)1232.04%約9.4位

露出は6月比で増えている。にもかかわらずCTRは一度も反転せずに下がり続けた。

GA4:AI Assistant経由はセッション全体の0.7%(2026年6月7日〜8月13日)

チャネルセッション構成比エンゲージメント率
Organic Search22.0%57.0%
AI Assistant0.7%35.3%

「AI経由の流入は質が高い」という説をよく聞くが、当社のデータはそれを支持していない。AI Assistantのエンゲージメント率35.3%は、意味のある母数を持つチャネルの中で最も低かった。

ただしこれを「AI流入の質は低い」と結論づけるのも早い。当該チャネル経由の主要イベントは期間中ゼロだったが、当社のOrganic Searchにおける主要イベント発生率(約2%)を、AI Assistantの数十セッションという母数に当てはめれば期待値は1件未満だ。ゼロは平均どおりでも起こる。 この母数では質の高低を判定できない、というのが誠実な読み方になる。

ここで正直に書いておきたいことがある。このデータは「AI検索のせいでクリックが減った」証拠にはならない。

理由は3つある。第一に、当サイトのGSCデータは2026年5月下旬からしか存在せず、AI Overviews普及前の基準値がない。第二に、8月5日に新規記事を13本公開しており、公開直後の記事はCTRが低い。第三に、8月は平均掲載順位自体が8.2位から9.4位へ悪化している。CTR低下はこれらで十分説明がつく。

にもかかわらずこの数字を出したのは、これがまさに本稿の主張そのものだからだ。外部調査で「CTRが34.5%下がる」と言われても、自社データを見れば要因は分離できない。だからこそ、順位やCTRという壊れやすい指標を主KPIに置かず、純問い合わせ数という壊れにくい指標に軸足を移す必要がある。

AI Assistant経由0.7%という数字も同じだ。今は誤差の範囲でしかない。だが基準値を取ったので、来月以降は「増えたか」を語れる。KPI設計とは、語れる状態を先に作っておくことだ。


よくある質問

Q1. SEOはもうやる意味がないのか

そんなことはない。母数が減るぶん、検討クエリでの上位表示の価値はむしろ上がる。変わったのは「情報収集クエリで広く集めて育てる」というモデルが効きにくくなったことで、SEOそのものの価値ではない。

Q2. LLMO/GEO対策に投資すべきか

効果測定の設計を先にやるべきだ。GA4のAI Assistantチャネルで基準値を取り、3ヶ月分の推移を見てから投資判断する。基準値なしに始めると、効果があってもなくても検証できない。

Q3. AI経由の流入は質が高いと聞いたが

「CVRが数倍」という主張は複数見かけるが、測定手法を公開している一次調査を筆者は確認できていない。当社の実データではAI Assistantのエンゲージメント率はむしろ最低だったが、この母数では判定できない。自社データで検証してから判断してほしい。

Q4. 「問い合わせの20%がAI経由」という話を聞いたが、うちのGA4は1%未満だ

両方とも正しい可能性が高い。前者はフォームの認知経路設問(自己申告)、後者はリファラー計測で、測っている対象が違う(詳しくは第5章)。他社の数字と自社の数字を比べるのは、同じ測り方であることを確認してからにしたい。なお認知経路設問はフォーム離脱と引き換えになるため、リード獲得を優先する局面ではあえて足さない判断も正しい。

Q5. 順位KPIをやめると現場が数字を追わなくなるのでは

降格させるだけで、廃止はしない。モニタリング指標として残し、週次では見る。主KPIから外すのは「評価の対象にしない」という意味で、「見ない」という意味ではない。

Q6. 経営層にどう説明するか

「セッションが減っても商談が減っていなければ問題ない」という合意を先に取ることだ。この合意がないまま母数が減ると、必ず「マーケが機能していない」という話になる。KPIの差し替えは、現場の作業変更ではなく経営との握り直しである。


関連記事


出典

  • Pew Research Center「Google users are less likely to click on links when an AI summary appears in the results」(2025年7月22日公開、調査期間2025年3月)
  • Ahrefs「AI Overviews Reduce Clicks by 34.5%」(30万キーワード、2024年3月vs2025年3月)
  • Google Analytics ヘルプ「What's New」AI Assistantチャネル追加(2026年5月13日)
  • 自社Google Search Console/GA4データ(2026年6〜8月)
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