ガイド2026-04-28

KPI Growth Model|KPI形骸化を防ぎ、グロースを成功させる5段階成熟度フレームとKDI設計】

岩田 圭弘岩田 圭弘Exgrowth株式会社 代表取締役
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KPI Growth Model — 形骸化しないKPIの作り方

KPIは設定している。 数字も、一応見ている。

それでも、現場の動きは変わらない。 施策を打っても、思ったほど数字は動かない。

これは、特定の会社や業界に限った話ではありません。 私がこれまで多くの企業で見てきた、共通する現象です。

KPIそのものが間違っている会社は、実はほとんどありません。 問題は、KPIの「使い方」にあります。

KPIを「設定するもの」から「運転するもの」へ。 この発想の転換ができれば、組織の数字は確実に動き始めます。

本記事では、私がキーエンスでの現場経験、スタートアップでのCOO経験、そして独立後の多数のコンサルティング経験から体系化した、2つのフレームワークを解説します。

  • KPI Maturity Model — 自社のKPI運用が、どの段階にあるかを診断する
  • KPI Growth Model — KPIを「設定」から「運転」に変える運用モデル

この2つの組み合わせで、「数字で動く組織」への道筋が見えてきます。


目次

  1. KPIが「正しいのに、現場が動かない」3つの理由
  2. KPI Growth Model — 全体像
  3. KPI Maturity Model — あなたの組織は、今どの段階にいるか
  4. 改善の正しい順序
  5. ボトルネックKPIの特定 — 改善の起点
  6. ケース: BtoBセールス組織での実装
  7. Primary KPIからKDIへの落とし込み
  8. まとめ — KPIを「運転する」ということ

1. KPIが「正しいのに、現場が動かない」3つの理由

KPIが機能していない会社で、ほぼ例外なく聞く言葉があります。

「KPIはちゃんと設定しているんです」 「数字も見ていないわけじゃないんです」

実際、その通りなことがほとんどです。

  • KPIツリーは一応できている
  • プロセスKPIも分解されている
  • 週次・月次で数字も共有されている

それでも、現場の行動は変わらない。 数字も、思ったほど改善しない。

この状況を、「現場の意識が低い」「マネージャーが弱い」で片づけてしまうのは、あまりにも雑です。

私が多くの企業を見てきて分かったのは、KPIが機能しない組織には、3つの共通する構造的な問題があるということです。

[図1: KPIが機能しない3つの理由]

理由1. KPIが「報告義務」になっている

KPIが機能しなくなる決定的な瞬間があります。それは、KPIが「報告しなければならない数字」になったときです。

  • 週次で報告がある
  • 会議用に数字を集める
  • 未達だと理由を説明する

この瞬間から、KPIは「行動を変える道具」ではなく、説明責任を果たすための材料になります。

結果として、

  • 数字を取りに行く時間が増える
  • 実行に使える時間が減る
  • 現場は疲弊する

という状態になります。これが「KPIはあるのに成果が出ない」状態の正体です。

理由2. 直す場所が決まっていない

プロセスKPIを並べると、多くの会社では次のような見え方になります。

  • 面談数が足りない
  • 展開率も低い
  • 受注率も良くない

すると自然に、「全部が課題だ」「全部改善しなければいけない」という結論に飛びます。その結果、トーク改善、提案書改善、新しい施策、管理項目の追加が次々に積み上がっていきます。

しかし、改善とは「全部を直すこと」ではありません。直すべき場所を一点に絞れない限り、改善は始まりません。

理由3. 行動レベルまで落ちていない

KPIがある会社ほど、実は現場が苦しくなっているケースもあります。理由は単純です。KPIがあるのに、どう動けばいいか分からないからです。

  • 何件行くかは決まっている
  • 数字は追っている
  • でも、具体的な実行策は個人任せ

この状態では、現場は「考え続ける」ことになります。

  • 今日は何を優先すべきか
  • どの案件に時間を使うべきか
  • この数字が悪いのは自分のせいなのか

結果として、提案書作成に時間を使いすぎる、社内ミーティングが増える、お客さんとの接触時間が減る、という最も避けたい方向に進んでいきます。

一番つらい思いをするのは、頑張っている人

これら3つが組み合わさると、一番つらい思いをするのは誰か。それは、真面目に頑張っている人です。

  • 数字を気にしている
  • 何とかしようと考えている
  • 自分なりに工夫している

それでも成果が出ない。なぜなら、直すべき場所が違うからです。

これは、個人の能力の問題ではありません。KPI運用の「構造」の問題です。


2. KPI Growth Model — 全体像

KPIがうまく機能していない会社を見ていると、規模や業界に関係なく、ほぼ同じ状態に行き着きます。

KGIは決まっている。KPIも分解されている。プロセスKPIらしき数字も並んでいる。

それでも、現場の動きは変わらない。数字も、思ったほど改善しない。

そしてはっきり分かったのは、問題はKPIの有無でも、設計の巧拙でもないということです。

KPIを「どういう構造で捉え、どういう順番で使うか」が整理されていない。

この一点に尽きます。

KPIは単体ではなく、必ず階層構造を持つ

この気づきをもとに整理したのが、KPI Growth Modelです。

このモデルでは、KPIを次の階層で捉えます。

[図2: KPI Growth Model 全体構造]

  • KGI — 経営の最終ゴール
  • KPI — KGIを構成要素に分解
  • プロセスKPI — 結果に至る工程の可視化
  • Volume Design — 量の設計
  • Quality Design — 質の設計
  • ボトルネックKPI — 今、最も成果を制約している一点
  • Primary KPI — ボトルネックを動かす最大の因子
  • KDI — 日次で実行を確認する行動指標

重要なのは、これらを「用語」として覚えることではありません。それぞれが、何のために存在しているかを分けることです。

KGIとKPIは「結果」を定義するためのレイヤー

KGIは、組織として最終的に達成したいゴールです。売上、受注額、ARR、利益。経営として見るべき数字です。

KPIは、そのKGIを構成要素に分解した結果指標です。たとえば、受注額を「単価 × 受注件数」に分ける。

ここまでは、結果を理解するためのフェーズです。まだ改善は始まっていません。

プロセスKPIで、結果に至る工程を可視化する

次にKPIを工程に分解し、プロセスKPIとして可視化します。

例: 面談件数 → 展開率 → 受注率

プロセスKPIまで落とすことで、初めて次の問いが立てられます。

  • どこまでは進んでいるのか
  • どこで止まっているのか

ただし、この段階で多くの会社はこうなります。

「全部が課題に見える」

ここで手当たり次第に施策を打つと、数字はほとんど動きません。

Volume DesignとQuality Designに分けて考える

KPI Growth Modelの大きな特徴は、プロセスKPIの次に、Volume Design(量の設計)とQuality Design(質の設計)を明確に分ける点です。

そして、必ずVolume Designから先に手をつけます。

理由は明確です。Volumeは、最もコントローラブルな領域だからです。

時間の使い方、行動の配分、優先順位。これらは、設計すれば確実に変えられます。

一方で、Qualityは、

  • ボトルネックKPIを生み出している因子の特定
  • Primary KPIの見極め
  • 案件・顧客・商材ごとのばらつき

といった不確実性を含みます。

だからこそ、最終的に自分たちで確実に動かせる「量」から手をつける。これが、KPI Growth Modelにおける改善の基本順序です。

Volume Designの構造式

Volume Designは、次の式で整理されます。

成果につながるボリューム = 労働時間 × 営業時間率 × 顧客接触率 ÷ 1件あたり所要時間

労働時間は原則として固定(増やさない)。残り3つの変数を、設計で動かしていきます。

  • 労働時間 — 定数(増やさない)
  • 営業時間率 — 営業活動に使える時間の割合
  • 顧客接触率 — 営業時間中、実際に顧客と接触している割合
  • 1件あたり所要時間 — 時間効率

長時間労働で量を稼ぐのではなく、限られた時間の中身を再設計する。これがVolume Designの本質です。

Quality Designで、ボトルネックを一点に絞る

Volumeが整った状態で初めて、Quality Designに進みます。

ここで重要なのは「全部を改善しない」ことです。

ボトルネックKPI(プロセスKPIの中の転換率)を一つに定め、それを動かす因子KPIを洗い出し、最もインパクトの大きい一つをPrimary KPIとして選びます。

施策ではなく数字で、経験ではなく数値で、Primary KPIを絞り込みます。

KDIまで落として、初めて運転できる

Primary KPIが決まったら、最後にKDIに翻訳します。

KDIとは、「やったか / やっていないか」だけを見る行動指標です。

  • 判断がいらない
  • 解釈が分かれない
  • 当日中に確認できる

成果が出たかではなく、行動が実行されたかだけを見る。この単純さが、組織の再現性を生みます。

そして、KDIは必ず日次で確認します。行動はその日しか修正できない。週次では遅い。月次では何も変わらない。

「その日のうちに見て、その日のうちに直す」これがKPIを運転するということです。

KPI Growth Modelが示しているもの

KPI Growth Modelが示しているのは、特別なノウハウではありません。

  • 変数を分ける
  • 動かせるものに集中する
  • 順番を守って改善する

ただそれだけです。

ただし、この順番を守っている組織が、ほとんど存在しない。だからこそ、結果に大きな差が生まれます。


3. KPI Maturity Model — あなたの組織は、今どの段階にいるか

KPI Growth Modelを組織に実装する前に、重要なことがあります。

それは、自社のKPIが「今どの段階にあるか」を正確に把握することです。

KPIには成熟度の段階があり、段階を飛ばして高度な運用をしようとしても機能しません。

私たちはこの段階を「KPI Maturity Model」として5つのレベルに整理しています。

[図3: KPI Maturity Model 5段階]

Level 1. KGI のみ

最も初期の段階です。

売上目標やKGIは共有されていますが、それを構成するプロセス指標が分解されていません。

  • 「今月の目標は◯円」だけが共有されている
  • なぜ達成・未達なのか分析できない
  • 改善のためのアクションが特定できない

この段階の組織は、まずプロセスKPIへの分解から取り組むべきです。

Level 2. プロセスKPIの「上澄み」だけ

KGIをプロセスに分解できている段階です。ただし、ここに大きな落とし穴があります。

それは、プロセスKPIの「上澄み」だけを押さえて、重要な中間段階が抜けていることです。

例えば、BtoBセールスでこんな状態になっていませんか。

  • 面談数は数えている
  • 受注数も数えている
  • しかしその間がブラックボックス

これでは、数字が悪化しても「どこで詰まったか」が分かりません。

面談から受注までの時間が長い事業の場合、受注のサイクルが終わって初めて結果が見える。改善のサイクルが極めて遅くなります。

実は、多くの日本企業はこのLevel 2で止まっています。

Level 3. 中間KPIを含む完全なプロセス分解

ここがKPI運用の本当のスタートラインです。

「行動」と「成果」の間を、すべて中間KPIで埋めている状態。

中間KPIは、2つの観点で必要になります。

観点1. 顧客の意思決定プロセスの中間段階

面談だけを数えていても、その先がブラックボックス。受注に至るまでの「検討意思のある状態(展開)」を中間に置きます。

例: 面談 → 展開 → 受注

「展開」の定義は重要です。

  • 会った、説明した、だけでは展開ではない
  • 顧客が「社内で検討を進める意思を持った状態」が展開

観点2. 行動プロセスの中間段階

「行動した」と「成果が出た」の間も分解します。

例えば、コール数とアポ数だけを見ていると、こんな結論になりがちです。

  • コール 100件
  • アポ 5件
  • 「アポ率5%、もっとコール数を増やそう」

しかし、これでは見落としていることがあります。

  • 100件のうち、担当者に接続できたのは何件か
  • 接続できた中で、アポになったのは何件か

これを中間KPI(コンタクト数)で分解すると見えるものが変わります。

  • コール: 100件
  • コンタクト(担当者接続): 30件
  • アポ: 5件

→ コンタクト率: 30% → コンタクト後アポ率: 16.6%

ここで初めて、どちらが問題かが見えます。

  • コンタクト率が低い → リスト・架電タイミングの問題
  • アポ率が低い → トーク・提案内容の問題

中間KPIがないと、闇雲にコール件数を増やす施策に走りがちです。これは典型的な「直すべき場所が決まらないまま、努力量だけ増やす」状態です。

Level 3に達した組織に起きる変化

中間KPIが揃うと、組織には大きな変化が起きます。

  • どの段階で詰まっているかが見える
  • 「コールを増やす」ではなく、「リストを変える」「トークを変える」など具体的な打ち手が出る
  • ボトルネックKPIを正しく特定できる
  • 改善のサイクルが速くなる

KPI Growth Modelの本当の力が発揮されるのは、このLevel 3以上に達してからです。

Level 4. 属性分解

中間KPIまで揃った上で、さらに細かい属性でKPIを分解できている段階です。

主な分解軸は3つあります。

  • 区分: 新規 / 既存
  • 企業規模別: SMB / Mid / Enterprise
  • チャネル・動機別: 広告 / 展示会 / アウトバウンド等

この段階になると、より精緻な分析ができます。

「新規の中堅企業向け、展示会経由の展開率は他チャネルより低い」

このような切り口で、ボトルネックKPIをより正確に特定できるようになります。

ただし、まだ課題があります。それは、リアルタイム性です。

Level 5. 属性分解 × 時間軸 × システム可視化

最終段階です。Level 4の属性分解に時間軸を掛け、システム上で常時可視化されている状態。

必須の3つの時間軸:

  • 月次: 戦略判断、目標設定
  • 週次: 進捗管理、軌道修正
  • 日次: 行動の運転、KDI確認

そして、これらがCRM/SFA等のシステム上で常時可視化され、誰でも・いつでも見られる状態。

この段階に達すると、KPIは本当の意味で「運転装置」になります。

  • 行動はその日のうちに修正できる
  • 週次・月次で構造的な改善ができる
  • 属人化せず、組織として再現可能になる

段階を飛ばすことはできない

KPI Maturity Modelの重要な原則は、段階を飛び越えられないことです。

  • Level 1の組織が、いきなりLevel 5を目指しても失敗する
  • Level 2の組織が、属性分解を入れる前にPrimary KPIの議論をしても、ボトルネックKPIの特定すら困難

まず、自社のレベルを正しく把握する。そして、次の段階に進むための設計をする。

KPI Growth Modelを効果的に運転するには、まず自社がLevel 3以上にいることが前提となります。

その意味で、Level 2の組織にとって最も重要な投資は、中間KPI(展開、コンタクトなど)の定義と測定の仕組み化です。


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4. 改善の正しい順序

KPI Growth Modelで最も重要なのは、改善の順序です。

[図5: 改善の正しい順序]

ステップ1. ボトルネックKPIを「一つ」に絞る

プロセスKPIの中で、今この瞬間、成果を最も制約しているのはどこか。

「一番悪い数字」ではなく、「直せば全体に最大のインパクトが出る工程」を選びます。

そのために見るべき軸は3つあります。

  • 目標との乖離
  • 過去との比較(インプット / アウトプット分解)
  • 他チーム・他メンバーとの比較

この3軸を揃えると、議論は必ず一点に収束します。

ステップ2. Volume Designで量を整える

ボトルネックが見えたら、まず「量」から手をつけます。

成果につながるボリューム = 労働時間 × 営業時間率 × 顧客接触率 ÷ 1件あたり時間

労働時間以外の3つは、すべて設計で動かせます。

なぜ量から先に手をつけるのか。それは、量が最もコントロール可能だからです。

質の議論は不確実性が高いが、量は時間の使い方の設計で確実に変えられます。

「量が足りない状態で質の議論をしない」これがKPI Growth Modelの鉄則です。

ステップ3. Quality Designで質で一点突破

量が整った状態で初めて、質の改善に進みます。

ここで重要なのは「全部を改善しない」ことです。

ボトルネックKPI(プロセスKPIの中の転換率)を一つに定め、それを動かす因子KPIを洗い出し、最もインパクトの大きい一つをPrimary KPIとして選ぶ。

施策ではなく数字で、経験ではなく数値で、Primary KPIを絞り込みます。

ステップ4. KDIまで落として日次運転

Primary KPIが決まったら、最後にKDIに翻訳します。

KDIとは、「やったか / やっていないか」だけを見る行動指標です。

  • 判断がいらない
  • 解釈が分かれない
  • 当日中に確認できる

成果が出たかではなく、行動が実行されたかだけを見る。この単純さが、組織の再現性を生みます。

そして、KDIは必ず日次で確認します。

行動はその日しか修正できない。週次では遅い。月次では何も変わらない。

「その日のうちに見て、その日のうちに直す」これがKPIを運転するということです。


5. ボトルネックKPIの特定 — 改善の起点

KPI Growth Modelが機能するかどうかは、ある一点にかかっています。

ボトルネックKPIを、正しく特定できるかどうか。

ここを外すと、どれだけ施策を打っても、どれだけ管理項目を増やしても、改善はほぼ確実に失敗します。

[図6: ボトルネックKPIを見る3つの軸]

多くの会社が、ボトルネックを見誤る理由

ボトルネックを特定できない会社の多くは、数字の見方が一面的です。

特に多いのが、当期の実績と当期の目標、この2点だけで判断してしまうケースです。

一見、正しそうに見えますが、この見方だけでは、ほぼ確実に判断を誤ります。

軸1. 目標との乖離 — 必要だが、それだけでは足りない

まず見るべきなのは、当然、目標との乖離です。

  • 目標に対して足りているか
  • どれくらい乖離しているか

これは必須です。

ただし、ここで必ず意識すべき前提があります。目標は、必ずしも「正しい基準」とは限らない。

目標が高すぎる、経営の期待値が先行している、前提条件(人員・市場)が変わっている。こうしたケースは、実務では非常に多いです。

目標だけを見てしまうと、「とにかく足りない」「全部が問題だ」という結論に簡単に飛んでしまいます。

軸2. 過去との比較 — インプットとアウトプットを分けて見る

そこで次に必ず見るのが、過去との比較です。

ここで重要なのは、単なる前年比ではありません。

見るべきは、インプットとアウトプットを分けた比較です。

例えば、

  • 去年と比べて人はどれくらい増えたのか
  • 1人あたりの面談数は増えたのか
  • 結果として、面談の総数(インプット)は増えたのか

ここまで見て、初めて「インプットが増えたかどうか」が分かります。

次に見るのがアウトプットです。

  • インプットが増えた結果、受注はどうなったのか
  • 展開数は増えたのか
  • 受注率はどう変わったのか

この2つを見て初めて、「効率が良くなったのか、悪くなったのか」という議論ができます。

軸3. 他との比較 — 相対で見て初めて構造が浮かび上がる

最後に見るのが、他との比較です。

  • 他チーム
  • 他拠点
  • 条件が近い他メンバー

同じ条件で成果が出ているケースと比べることで、環境の問題か、構造の問題かを切り分けることができます。

この比較をしない限り、「市場が悪い」「タイミングが悪い」という説明で思考が止まります。

3つの軸をすべて見て、初めて「正しい数字」を見たと言える

ボトルネックKPIを特定するためには、

  • 目標との乖離
  • 過去との比較(インプット / アウトプット)
  • 他との比較(相対評価)

この3つを同時に見ることが不可欠です。

どれか一つでも欠けると、判断は必ず歪みます。


6. ケース: BtoBセールス組織での実装

ここまでで KPI Growth Model の全体像と、KPI Maturity Modelによる段階整理をお伝えしました。このセクションでは、実際のBtoBセールス組織にこのモデルを適用すると、どのような形になるかを解説します。

KPI構造の整理

BtoBセールスにおける標準的なプロセスKPIは、以下の6段階で構成されます。

[図4: BtoBセールスファネル]

コール → コンタクト → アポ → 面談 → 展開 → 受注

このプロセスを並べた段階で、多くの会社は「全段階に課題がある」と感じます。

しかし、改善は全部を直すことではありません。どこか一段階を「ボトルネックKPI」として特定する必要があります。

ボトルネックKPIの特定

仮に、以下のような状況だったとしましょう。

  • コール、コンタクト、アポは目標を達成している
  • 面談数も増えている
  • しかし、展開数から受注数への転換率が低い

この場合、ボトルネックKPIは「展開獲得率(受注数 ÷ 展開数)」となります。

ここで重要なのは、3つの軸で確認することです。

  • 目標との乖離: 展開獲得率が目標を下回っているか
  • 過去との比較: 前期と比べて悪化しているか
  • 他との比較: 他チームと比べて低いか

3軸すべてで「展開獲得率が問題」と確認できて初めて、ボトルネックKPIとして確定します。

Volume Designの確認

ボトルネックKPIが特定できたら、まず量(Volume)が足りているかを確認します。

  • 面談時間は十分に取れているか
  • 展開後のフォロー時間は確保されているか
  • 1件あたりに割ける時間が短すぎないか

量が足りないなら、まずここを設計し直します。量が十分にあれば、次のステップへ進みます。

Primary KPIの特定

量が整っていれば、次は「展開獲得率を動かす因子」を洗い出します。

候補となる因子KPI:

  • 決裁者同席率
  • 提案書の提出有無
  • 代打TEL(上司による顧客直接コール)実施率
  • 面談後の即日フォロー実施率

これらを「構成比 × 転換率」で見て、全体インパクトが最大の因子を選びます。

[図7: Primary KPIの絞り込み例]

例えば、データを分析した結果、こうなったとします。

  • 決裁者同席ありの展開: 受注率 50%、構成比 20% → 全体インパクト 10%
  • 決裁者同席なしの展開: 受注率 15%、構成比 80% → 全体インパクト 12%

この比率を変えるとどうなるか。決裁者同席率を 20% → 60% に引き上げると、全体の展開獲得率は大きく改善する計算になります。

ここで Primary KPI が「決裁者同席率」と特定されます。

経験ではなく、数字で決める

ここが重要なポイントです。

多くの組織では、Primary KPIが「マネージャーの経験」「過去の成功体験」「分かりやすそうな指標」で決められます。

しかし、これはほぼ確実に失敗します。なぜなら、それが本当に効いているかを数字で見ていないからです。

Primary KPIは、思想ではなく数値で決めるものです。

  • 転換率に明確な差が出ているか
  • 構成比として、現実的に動かせるか

この2つの条件で絞り込みます。


7. Primary KPIからKDIへの落とし込み

Primary KPI が決まったら、最後にKDIに翻訳します。これがKPI Growth Modelの最後のピースです。

KDIとは何か

KDI (Key Driver Indicator) とは、Primary KPIを確実に動かすために設定する、「やったか / やっていないか」だけが分かる行動指標です。

KDIに求められる条件は明確です。

  • 判断がいらない
  • 解釈が分かれない
  • 当日中に確認できる

KDIは努力目標でも、意識目標でもありません。実行有無だけを管理する指標です。

[図8: Primary KPIからKDIへの落とし込み]

よくあるKDI設計の失敗

多くの企業では、KDIが次のように設計されます。

  • 丁寧なヒアリングを行う
  • 決裁者を意識した商談をする
  • 提案の質を高める

これらはすべて失敗です。理由は一つ。実行されたかどうかを、第三者が即座に判断できないからです。

KDIは必ず、

  • Yes / No で判断できる
  • 誰が見ても同じ判定になる

この条件を満たす必要があります。

Primary KPIからKDIへの翻訳例

先ほどのケース(Primary KPI = 決裁者同席率)で、KDIを設計してみましょう。

KDI: 決裁者同席を「依頼したか」
  • 内容: 初回面談の設定時に、決裁者同席を依頼したか
  • 判定: Yes / No
  • 重要なポイント: 同席が「実現したか」ではなく、「依頼したか」を見る

実現したかは、相手側の事情にも左右されます。しかし、依頼したかは、自分側で100%コントロールできます。だからKDIには、自分でコントロールできる行動を選びます。

KDIは「1つに絞る」

ここで強調したいのは、KDIは1つに絞るということです。

3つも4つもKDIを追いかけると、運用が破綻します。

  • 何を最優先するかが現場で判断できない
  • 管理コストが上がる
  • 結局、どれもやらなくなる

最も影響度の高い1つに絞り、日次で確認する。これがKPI Growth Modelの哲学です。

「Primary KPIを一つに絞る」「KDIも一つに絞る」。この徹底した一点集中が、組織の再現性を生みます。

日次運用で見る項目

最後に、日次で見るのは以下の3点だけで十分です。

  1. Primary KPI(決裁者同席率)はどうだったか
  2. KDI(同席依頼の実施)は実行されたか
  3. 実行されなかった場合、その理由は何か

会議で30分かけて議論する必要はありません。3分で確認できる仕組みになります。

マネージャーの役割は「判断」ではなく「運転」

KDIが明確になると、マネージャーの役割は大きく変わります。

判断する、指示する、ではなく、KDIが実行される環境を整え、実行されなかった理由を構造で潰すこと。

これだけです。


8. まとめ — KPIを「運転する」ということ

KPIで成果を出す組織と、出ない組織の違いは、能力ではありません。

  • KPIを「設定するもの」と捉えるか、「運転するもの」と捉えるか
  • 全部を改善しようとするか、一点に絞るか
  • 結果指標を眺めるか、行動指標(KDI)まで落とすか

この発想の差が、3ヶ月後、半年後の数字に決定的な違いを生みます。

KPI Growth Modelの本質

本記事で解説した KPI Growth Model が示しているのは、特別なノウハウではありません。

  • 変数を分ける
  • 動かせるものに集中する
  • 順番を守って改善する

ただそれだけです。ただし、この順番を守っている組織が、ほとんど存在しない。だからこそ、結果に大きな差が生まれます。

KPI Maturity Modelで自社を診断する

そして、KPI Growth Modelを実装する前に、自社のKPI Maturity Levelを正確に把握することが重要です。

  • Level 1: KGI のみ
  • Level 2: プロセスKPIの「上澄み」だけ
  • Level 3: 中間KPIを含む完全なプロセス分解 ★Growth Modelの起点
  • Level 4: 属性分解
  • Level 5: 属性分解 × 時間軸 × システム可視化

多くの日本企業はLevel 2で止まっています。次に進むための投資は、中間KPI(展開、コンタクトなど)の定義と測定の仕組み化です。

成果は再現できる

KPI Growth Modelが伝えたいことは、非常にシンプルです。

成果は、正しいKPIを、正しい順序で、KDIまで落とし、日次で運転すれば、必ず再現できる。

気合いはいらない。勘に頼らない。優秀な個人に依存しない。

KPIを「管理の道具」ではなく、行動を変え、成果を生むエンジンとして使う。

これが、KPI Growth Model です。


著者紹介

岩田 圭弘 (いわた よしひろ) Exgrowth株式会社 代表取締役

キーエンスでの営業・本社経験、スタートアップでのCOOとして組織立ち上げを経験。独立後はExgrowthを設立し、KPIコンサルティング、セールス・マーケティング支援、組織開発を中心に多数の企業を支援。著書多数。


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