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KPI設計・フレーム2026-07-09

KPI改善の2つのアプローチ|Try(試す)とShift(シフト)を使い分ける方法

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著者:岩田圭弘(Exgrowth株式会社 代表)|50社以上の成長支援を手がけるKPIコンサル。

はじめに——「データがないと改善できない」は誤解

「KPIを改善したいけど、データが足りなくて手が打てない」

こんな相談を受けることが多い。でも、それは少し誤解がある。データがなくても、KPIは改善できる。

KPI改善には、大きく分けて2つのアプローチがある。データがない状況で使う「Try(試して・計測する)」と、データがある状況で使う「Shift(比べて・シフトする)」だ。

どちらが優れているかではない。状況によって使い分けることが重要で、この2つを知っておくだけで、「何から手をつければいいかわからない」という状態から抜け出せる。


KPI改善には2つのアプローチがある

KPI改善の2つのアプローチ:TryとShift
KPI改善の2つのアプローチ:TryとShift

ボトルネックKPIを特定したあと、次のステップで多くの人が詰まる。「何をすれば改善するのか?」

その答えは、手元に切り口別のデータがあるかどうかで変わる。

  • データなし → アプローチA「Try(試して・計測する)」
  • データあり → アプローチB「Shift(比べて・シフトする)」

どちらのアプローチも、最終的な目的地は同じ。「効果の高い施策・セグメント・リソース配分に集中する」ことだ。


アプローチA「試して・計測する(Try)」——まずデータをつくる

難易度:★★★ 即効性:低(時間がかかる)

データがないとき、多くの人は「何もできない」と思う。でも実際には、データをつくるプロセスを踏めばいい。

  1. 仮説を立てる——「この施策が効くのではないか?」という問いを立てる
  2. 施策を実施する——「やった時」と「やらない時(または別の施策)」の両方を計測する
  3. 効果を確認する——転換率や結果を比較し、効果のあった施策を特定する
  4. データが蓄積される——これがShiftへの材料になる

ポイントは「やった時とやらない時を比較する」こと。ABテストの考え方に近い。対照条件を意識して計測することで、はじめて信頼できる根拠が手に入る。


アプローチB「比べて・シフトする(Shift)」——データをつかって即改善

難易度:★ 即効性:高(即座に改善できる)

Shiftは、すでにデータがある状態で使うアプローチ。

  1. 切り口別に数値を比べる——「大手企業:成約率50% vs 中小企業:成約率20%」のように並べる
  2. 転換率の高い方を特定する——どちらが効果的かを確認する
  3. そちらにシェアを移す——リソース配分を変えるだけでいい
  4. 全体の数字が改善される——新しい施策を打たなくても改善できる

「新しい施策を打たなくていい」というのが、Shiftの最大のメリットだ。既存のリソースの配分を見直すだけで、全体の転換率が改善できる。この「配分を変えるだけで全体が改善する」考え方は、ミックス(配分)を変えるだけの戦略でさらに詳しく解説している。

Aはデータをつくるプロセス、Bはデータをつかうプロセス。最初はAで試して計測し、データが溜まったらBに移行する——これがKPI改善の王道の流れだ。


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身近な例で理解する——料理も広告も同じロジック

ネット広告のTry→Shift:SNSに予算を集中
ネット広告のTry→Shift:SNSに予算を集中

例①:家庭料理

  • Try:カレーとハンバーグを交互に作り、家族の反応を観察する
  • 結果:「カレーの方が好評」とわかった
  • Shift:カレーの頻度を増やす

例②:ネット広告

  • Try(ABテスト):SNS広告とメール広告に同じ予算を配分し、CVRを計測する
  • 結果:SNS広告のCVRが3.0%、メール広告のCVRが1.0%と判明
  • Shift:SNS広告に予算を集中させる

施策を増やしたわけではない。配分を変えただけで、全体のCVRが改善した。


ビジネスへの応用(営業・採用・製造)

営業・採用・製造のTry→結果→Shift
営業・採用・製造のTry→結果→Shift
職種Try結果Shift
営業大手と中小に同数アプローチ大手:成約率40%、中小:10%大手比率を引き上げる
採用複数チャネルで同数応募獲得イベント経由:通過率65%、媒体:25%イベント投資を増やす
製造全ラインで均等配分し不良率計測Aライン:0.5%、Bライン:2.0%Aラインへの生産集中

KPI分解の全体フロー——6つのステップ

KPI分解の6ステップ(Step4でTry/Shift分岐)
KPI分解の6ステップ(Step4でTry/Shift分岐)

Step 1:KGI(最終目標)を設定する

「何を達成したいか」を数値で定義する。

Step 2:KPI群・プロセスKPIに分解する

KGIに至るまでのプロセスをファネルとして可視化する。

Step 3:ボトルネックKPIを特定する(制約理論TOC)

ファネルの中で、最も転換率が低く、全体の足を引っ張っているKPIを特定する。詳しい手順はKPIのボトルネックを見つける方法|制約理論(TOC)を参照。

Step 4:Primary KPIを選定する——TryかShiftか

Step 3と4がこのフレームワークの核心だ。

  • データなし → Try:「施策をやった時 / やらない時」を比較して計測する
  • データあり → Shift:「セグメント別の転換率」を比較し、高い方にシェアを移す

Step 5:Primary KPIを宣言・集中する

インパクトとフィージビリティを掛け合わせて、最優先する施策を決める。チームで宣言する。

Step 6:KDI(行動指標)で実行を確認する

「KPIが上がるための行動が、毎日・毎週ちゃんと起きているか」を日次・週次で追う。KGI・KPI・KDIの3層構造についてはKGI・KPI・KDIの違いで詳しく解説している。


よくある質問(FAQ)

Q1. TryとShiftは、どちらから始めるべきですか?

手元に切り口別のデータがあるかどうかで決まる。データがなければTryでデータをつくり、十分に溜まったらShiftで配分を最適化する——これが基本の流れだ。

Q2. Tryはどのくらいの期間続ければいいですか?

「やった時/やらない時」を比較できるだけのサンプルが集まるまでが目安。転換率の差が偶然ではないと判断できる件数まで、対照条件を揃えて計測することが前提になる。

Q3. Shiftで配分を変えても全体が改善しないことはありますか?

セグメント間の差が小さい、または母数が偏っている場合は効果が出にくい。その場合はTryに戻り、新しい切り口や施策で差が出るポイントを探し直す。

Q4. TryとShiftは、KPIツリーのどこで使うのですか?

ボトルネックKPIを特定したあとのPrimary KPI選定(本記事のStep 3〜4)で使う。ボトルネックの改善手段として、データの有無に応じてTry/Shiftを選び分ける。

まとめ

「データがないと改善できない」は誤解だ。データがなければTryでデータをつくり、データが溜まったらShiftでリソースを最適化する。

重要なのは、今自分がTryフェーズにいるのか、Shiftフェーズにいるのかを判断すること。それだけで、打ち手の精度は大きく変わる。

まずは自社のファネルを書き出し、どのKPIが一番詰まっているかを確認するところから始めてほしい。

本記事は、KPI設計の全体像をまとめたKPI設計 完全ガイドの実践編にあたる。営業・採用・製造など職種別の具体例は職種別KPI設定の事例集もあわせて読んでほしい。

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