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KPI設計・フレーム2026-09-15

リードタイムとは|「短縮しろ」と言うと現場は隠す。工程別に分解して測る設計

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本記事は50社以上の成長支援を手がけるKPIコンサル・岩田圭弘が解説します。

「リードタイムを短縮しろ」。この号令を出したあと、現場で何が起きるか。工程の中身は何も変わらないまま、着手日と完了日の申告だけが整っていくことが珍しくない。リードタイムは、全体を1本の数字で追うかぎり「どこで待っているのか」が見えない指標だ。見えないまま短縮を求めれば、残る手段は記録の調整しかない。本記事では、リードタイムを工程別に分解して測る設計、短縮と引き換えに何が犠牲になるのか、そして評価に使った瞬間に数字が歪む構造を整理する。

図:リードタイムの3層設計(KGI→中間KPI→先行KPI)
図:リードタイムの3層設計(KGI→中間KPI→先行KPI)

リードタイムとは|定義と計算式

リードタイムとは、ある依頼や指示が発生してから、それが完了して相手に届くまでの経過時間である。

リードタイム = 完了日時 - 起点日時

計算式はこれだけだ。重要なのは、この中に「正味の作業時間」と「何も進んでいない待ち時間」の両方が含まれていること。製造の生産リードタイムなら、材料待ち・段取り待ち・検査待ちが含まれる。営業の商談期間なら、稟議待ち・見積待ち・再訪待ちが含まれる。

計算が難しい指標ではない。難しいのは「どこからどこまでを測るか」を社内で合意することであり、ここが曖昧なままの数字は部署をまたいだ瞬間に比較できなくなる。

この指標だけを見ても数字が動かない理由

リードタイムは結果指標(遅行指標)である。今日出てきた「30日」という数字は、30日前に始まった案件の履歴であって、今日の行動の成績ではない。数字が悪いと分かったときには、その案件はもう終わっている。

それ以上に問題なのは、1本の数字には原因の情報が入っていないことだ。「平均30日」と言われても、どの工程で何日待っていたのかが分からない。分からないまま改善を求められた現場が取れる手は、次の3つしかない。

  1. 全工程をまんべんなく急ぐ——どこが効くか分からないので、効かないところにも力が入る
  2. 楽な案件を先に流す——難しい案件が後ろに溜まり、平均は縮むが最悪ケースは悪化する
  3. 記録のタイミングを調整する——着手の申告を遅らせ、完了の申告を早める

3つ目が最も簡単で、最も数字に効く。だから「短縮しろ」という号令に対して、最初に動くのは工程ではなく記録になりやすい。これはリードタイムという指標に特有の弱点で、金額の指標(売上・原価)と違って起点と終点が人の入力で決まることが原因だ。

3層フレーム上の位置づけ

KPIはKGI(最終成果)→中間KPI(遅行)→先行KPI(行動)の3層で設計する。リードタイムは中間KPIに置く指標であり、KGIでも先行KPIでもない

問いリードタイム周辺の指標例評価に使ってよいか
KGI(最終成果)事業にどう効いたか納期遵守率/受注高/在庫を含めた利益使える(組織・部門単位で)
中間KPI(遅行)速く・ばらつかずに届いているか生産リードタイム/出荷リードタイム/商談期間自動取得なら使える。申告ベースなら管理に回す
先行KPI(行動)今日、何を変えるか前工程完了から次工程着手までの時間/当日着手率/仕掛件数管理に使う。レビュー会議の材料にする

3層の考え方そのものはKGI・KPI・KDIの違いに整理している。

リードタイムで特に注意したいのは、評価に使えるかどうかがデータの取得方法で変わる点だ。システムのログから自動で取れるリードタイム(受注登録時刻、出荷実績時刻など)は、本人が操作できないので遅行指標として評価に載せられる。一方、作業者が日報に書く着手日・完了日から計算したリードタイムは、本人が操作できる。これを評価に紐づけると、改善されるのは工程ではなく記録になる。評価と管理の線引きはKPIを人事評価に使うと数字が歪むを参照されたい。

なお、「当日着手率」のような行動量を評価に入れるかどうかは、仕組みの段階で変わる。着手の習慣が定着していない立ち上げ期は、あえて評価に載せて文化にするほうが回り始める。定着後は量だけを見続けず、その行動が実際にリードタイム短縮につながっているかと並べて見る。この論点は営業日報は何のためにあるのかに集約している。

工程に分解して先行指標に落とす

図:リードタイムを正味作業時間と待ち時間に分解し、待ちを先行KPIに落とす図
図:リードタイムを正味作業時間と待ち時間に分解し、待ちを先行KPIに落とす図

ここが本記事の主役だ。リードタイムは足し算で分解できる。

リードタイム = 正味作業時間の合計 + 工程間の待ち時間の合計

実測すると、多くの現場で待ち時間が全体の大半を占める。加工そのものは数時間なのに完成までに2週間かかる、提案書の作成は1日なのに受注までに3か月かかる——こうしたケースで短縮の余地があるのは、作業の速さではなく待ちの側だ。「もっと速く作業しろ」が的を外すのは、触っていない変数を押しているからである。

分解から先行KPIに落とすまでの手順は次の5ステップになる。

ステップ1:起点と終点を文字で書いて合意する

「受注リードタイム」が、受注登録からなのか、引き合いの発生からなのか、正式発注からなのか。営業と製造で起点が違えば、同じ案件が別の日数になる。最初に1行で定義を書き、関係部署で読み合わせる。

ステップ2:工程の区切りを決め、通過時刻を記録する

区切りは細かすぎても続かない。まずは4〜6個でよい。製造なら「受注→生産指示→着手→加工完了→検査完了→出荷可能」。営業なら「初回接触→要件確認→提案→稟議提出→受注」。それぞれの通過時刻を記録する。

ステップ3:正味時間と待ち時間に分ける

各区切りの間を、実際に誰かが手を動かしていた時間と、次の誰かを待っていた時間に割る。ここで初めて「リードタイムの正体」が見える。

ステップ4:最大の待ちを1つだけ選ぶ

複数の工程に同時に手を入れると、どれが効いたか分からなくなる。最も長く滞留している工程を1つだけ選ぶ。どの工程を選ぶかの判断は、制約理論の考え方が使える(KPIのボトルネックを見つける方法)。

ステップ5:その待ちを生んでいる行動を先行KPIにする

待ちの正体は、ほとんどの場合「次の担当者が着手していない」か「判断が出ていない」のどちらかだ。そこで先行KPIは時間そのものではなく、行動の実行率に置く。

分解して出てきた待ち待ちの正体先行KPI(行動)
生産指示から着手までの滞留図面・材料・治具が揃っていない着手前チェックの完了率/指示当日の段取り着手率
加工完了から検査完了までの滞留検査が工程末にまとめられている工程内検査の実施率/検査待ち件数
稟議提出から決定までの滞留決裁者が商談に入っていない決裁者同席率/稟議資料の事前送付率
提案から次回接触までの滞留次回の日程が決まっていない商談当日の次回日程確定率
工程全体に薄く広がる滞留仕掛が多すぎて順番待ちしている1人あたり仕掛件数(上限を決める)

最後の行は見落とされやすい。案件を多く抱えるほど、1件あたりのリードタイムは伸びる。 手持ちが増えれば、どの案件も順番を待つ時間が長くなるからだ。リードタイムを縮めたいとき、新しい案件を止めて仕掛を減らすのが最も速い打ち手になることは珍しくない。分解の型そのものはKPIツリーの作り方に整理している。

単独で追うと何が壊れるか

図:リードタイム短縮のトレードオフと、ペアで置くべき指標
図:リードタイム短縮のトレードオフと、ペアで置くべき指標

リードタイムには必ずトレードオフの相手がいる。短縮だけを目標にすると、相手側が黙って悪化する。ペアで置いて初めて設計になる。

短縮の対象単独で追うと起きることペアで置く指標
生産リードタイムロットを小さくして段取り回数が増え、単位原価が上がる段取り時間/製造原価率
出荷リードタイム在庫を厚く持って対応し、運転資金が寝る在庫回転率/欠品率
商談期間決まりやすい小型案件に寄り、平均単価が下がる平均受注単価/大型案件の構成比
全体の平均リードタイム平均は縮むが、遅い案件はそのまま残る納期遵守率/上位10%の遅い案件の日数
申告ベースのリードタイム記録のタイミングが調整される自動取得率/記録と実態の突合件数

4行目は特に重要だ。顧客が感じているのは平均ではなく、自分の案件が約束どおりに届いたかどうかである。平均リードタイムが縮んでも納期遵守率が動いていなければ、改善されたのは社内の数字だけだ。速さの指標には、必ずばらつきか約束の遵守を並べる。

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業種・職種で定義が変わる

リードタイムは同じ言葉で別の区間を指す。社内で話が噛み合わない原因はほぼここにある。

領域呼び方起点終点よく起きる滞留
製造生産リードタイム生産指示完成・出荷可能材料待ち、段取り待ち、検査待ち
調達調達リードタイム発注入荷検収サプライヤー側の生産待ち、輸送
物流出荷リードタイム受注確定出荷ピッキング着手の遅れ
営業商談期間(リードタイム)初回接触受注稟議待ち、検証待ち
開発変更リードタイムコミット本番稼働レビュー待ち、デプロイ待ち
採用採用リードタイム求人開始入社日程調整、選考判断待ち

このうち、工場の指標体系における位置づけは製造業のKPI設計、出荷リードタイムと在庫・誤出荷の関係は物流・倉庫のKPI設計、開発の変更リードタイムとFour Keysは開発組織のKPI設計でそれぞれ詳しく扱っているので、該当領域はそちらを参照されたい。営業の商談期間を工程(展開)で区切る設計はフィールドセールスKPI設計で扱っている。

ベンチマーク|「何日が正常か」ではなく「何を並べて見るか」

図:リードタイムで並べて見る指標一覧(先行/遅行/管理の種別付き)
図:リードタイムで並べて見る指標一覧(先行/遅行/管理の種別付き)

リードタイムには、業種を横断して使える目安値が存在しない。同じ「30日」でも、受注生産の機械なら速く、即納が前提の消耗品なら遅い。工程数も商材も違う相手の平均値は、比較の根拠にならない。見るべきは水準ではなく、指標の組み合わせである。 次の一覧は、リードタイムを扱うときに並べて置く指標と、それぞれが何を教えてくれるかを整理したものだ。

指標種別分かること・使いどころ
全体リードタイム(平均)遅行届くまでの速さの全体水準。原因の情報は含まれない
中央値/上位10%の遅い案件の日数遅行ばらつき。平均の裏に残っている遅い案件が見える
納期遵守率遅行顧客との約束が守れているか。速さより先に置く
工程別の滞留時間遅行(診断用)どの工程で待っているか=打ち手の所在
正味作業時間の比率遅行(診断用)短縮余地が作業側にあるか、待ち側にあるか
当日着手率先行指示を受けた日に手が動いているか
着手前チェックの完了率先行待ちの原因になる準備不足が潰せているか
1人あたり仕掛件数先行順番待ちを生む手持ち量。上限を決める対象
リードタイムの自動取得率管理その数字を評価に載せてよいかの判断材料

目標値を置くなら、外部の平均ではなく自社の実績分布から取る。同じ工程ですでに速く完了している案件があるなら、その日数は「どこかの会社の平均」ではなく、自社で再現できることが証明済みの水準だ。速い案件と遅い案件を並べ、何が違ったのかを見にいく——KSFはこの比較の中から出てくる。

改善の型:指標の置き方を変えると何が変わるか

図:全体1本の短縮号令(Before)と工程分解(After)の比較
図:全体1本の短縮号令(Before)と工程分解(After)の比較

指標の置き方だけで、現場の行動がどう変わるかを構造で示す。

Before(全体1本・短縮の号令)

  • 全社で「平均リードタイム」1本を掲げ、月次で報告する
  • 工程ごとの通過時刻は記録していないため、遅れの所在は誰にも分からない
  • 現場に渡るメッセージは「急げ」だけになる
  • 最も手軽に数字が動く手段=記録のタイミング調整が使われる
  • 結果:報告上のリードタイムは短くなるが、納期遵守率とクレーム件数は変わらない

After(工程分解・待ちを1つに絞る)

  • 起点と終点を1行で定義し、工程を4〜6区切りに分けて通過時刻を記録する
  • 正味時間と待ち時間に割り、最も長い待ちを1つだけ選ぶ
  • その待ちを生む行動(着手前チェック完了率、当日着手率など)を先行KPIにして日次で見る
  • リードタイムは評価から外し、レビュー会議で原因を探す材料に回す
  • 平均と並べて、納期遵守率と遅い案件の日数を置く

変わったのは現場の努力量ではなく、何を数えるかと、誰が何を動かせるかである。遅れの所在が特定できれば、現場は「急ぐ」以外の手段を持てる。記録が評価から外れれば、記録を歪める動機がなくなる。この2つが揃ったときにだけ、報告上の数字と実態が同じ方向に動く。運用サイクルの作り方はKPIマネジメントの運用PDCAに整理している。

失敗3パターン

図:リードタイム運用の失敗3パターンと戻し方
図:リードタイム運用の失敗3パターンと戻し方

失敗1:全体を1本の数字で追い続ける

分解していないリードタイムは、診断に使えない。「遅い」という事実だけが毎月報告され、打ち手は毎回「意識を上げる」に収束する。→ 工程の区切りを決め、待ち時間を分けて測る。完璧な計測を目指さず、滞留が疑われる1工程から期間限定で始めれば足りる。

失敗2:短縮だけを号令にする

短縮の目標値だけが配られ、何を変えれば縮むのかが示されないと、記録の調整が最短経路になる。→ 短縮目標と同時に、どの工程の待ちを潰すのかを1つ指定する。先行KPIのない短縮目標は配らない。

失敗3:平均だけを見る

平均は、遅い案件が少数あるだけで動かない。逆に、難しい案件を止めて簡単な案件だけを流せば平均は縮む。→ 平均と一緒に、遅い側(上位10%の日数)と納期遵守率を必ず並べる。顧客が見ているのは平均ではない。

よくある質問(FAQ)

Q1. 平均リードタイムで管理してはいけないのですか?

平均だけで管理するのが問題です。平均は少数の長い案件に引っ張られるか、逆にその存在を隠します。中央値(半分の案件が収まる日数)と、遅い側の日数を並べてください。顧客への約束は、平均ではなく遅い側の日数を根拠に置くほうが守れます。

Q2. 工程ごとの通過時刻を記録するのは現場の負担が重いのでは?

全案件を常時記録する必要はありません。滞留が疑われる工程を1つ選び、1〜2か月だけ、代表的な案件に絞って測れば所在は特定できます。所在が分かれば、以後はその工程の着手率だけを日次で追えば足ります。測ることが目的ではなく、打ち手を決めることが目的です。

Q3. リードタイムを評価に使ってよいのでしょうか?

システムから自動で取れるリードタイムは、結果指標として組織・部門単位の評価に使えます。一方、作業者が入力する着手日・完了日から計算したものは本人が操作できるため、評価に載せると記録が歪みます。この場合は管理に回し、評価には別の指標を使ってください。

Q4. 短縮の目標値はどう決めればいいですか?

業界平均や他社の数字は、工程も商材も違う相手との比較なので根拠になりません。自社の過去案件を並べ、すでに速く完了している案件がどれだけの日数だったかを見てください。同じ会社の同じ工程でその日数が出ているなら、それは実現可能な水準だという証拠になります。比較から改善余地を特定する進め方はKPI達成率|上がらない本当の原因とKSFの見つけ方に整理しています。

Q5. 受注や案件が増えるとリードタイムが伸びます。これは仕方ないのでは?

構造上そうなります。同時に抱える件数が増えれば、どの案件も順番を待つ時間が長くなるためです。だからこそ、リードタイムを縮める最も確実な打ち手は、速く作業することではなく仕掛を減らすことになります。1人あたりの同時進行件数に上限を決める、着手の順番を決める——この2つは設備投資も増員もなしに実行できます。

まとめ

リードタイムは遅行指標であり、1本の数字には原因の情報が入っていない。分解せずに「短縮しろ」と言えば、動くのは工程ではなく記録になる。やるべきことは3つだ。起点と終点を定義して工程で区切る。正味時間と待ち時間に割り、最大の待ちを1つ選んで、その待ちを生む行動を先行KPIにする。そして短縮の目標には必ず納期遵守率かばらつきを並べる。 速さは単独で追える指標ではない。ペアで置いたときに初めて、数字と実態が同じ方向に動き出す。


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