本記事は50社以上の成長支援を手がけるKPIコンサル・岩田圭弘が解説します。
「リードタイムを短縮しろ」。この号令を出したあと、現場で何が起きるか。工程の中身は何も変わらないまま、着手日と完了日の申告だけが整っていくことが珍しくない。リードタイムは、全体を1本の数字で追うかぎり「どこで待っているのか」が見えない指標だ。見えないまま短縮を求めれば、残る手段は記録の調整しかない。本記事では、リードタイムを工程別に分解して測る設計、短縮と引き換えに何が犠牲になるのか、そして評価に使った瞬間に数字が歪む構造を整理する。
リードタイムとは|定義と計算式
リードタイムとは、ある依頼や指示が発生してから、それが完了して相手に届くまでの経過時間である。
リードタイム = 完了日時 - 起点日時
計算式はこれだけだ。重要なのは、この中に「正味の作業時間」と「何も進んでいない待ち時間」の両方が含まれていること。製造の生産リードタイムなら、材料待ち・段取り待ち・検査待ちが含まれる。営業の商談期間なら、稟議待ち・見積待ち・再訪待ちが含まれる。
計算が難しい指標ではない。難しいのは「どこからどこまでを測るか」を社内で合意することであり、ここが曖昧なままの数字は部署をまたいだ瞬間に比較できなくなる。
この指標だけを見ても数字が動かない理由
リードタイムは結果指標(遅行指標)である。今日出てきた「30日」という数字は、30日前に始まった案件の履歴であって、今日の行動の成績ではない。数字が悪いと分かったときには、その案件はもう終わっている。
それ以上に問題なのは、1本の数字には原因の情報が入っていないことだ。「平均30日」と言われても、どの工程で何日待っていたのかが分からない。分からないまま改善を求められた現場が取れる手は、次の3つしかない。
- 全工程をまんべんなく急ぐ——どこが効くか分からないので、効かないところにも力が入る
- 楽な案件を先に流す——難しい案件が後ろに溜まり、平均は縮むが最悪ケースは悪化する
- 記録のタイミングを調整する——着手の申告を遅らせ、完了の申告を早める
3つ目が最も簡単で、最も数字に効く。だから「短縮しろ」という号令に対して、最初に動くのは工程ではなく記録になりやすい。これはリードタイムという指標に特有の弱点で、金額の指標(売上・原価)と違って起点と終点が人の入力で決まることが原因だ。
3層フレーム上の位置づけ
KPIはKGI(最終成果)→中間KPI(遅行)→先行KPI(行動)の3層で設計する。リードタイムは中間KPIに置く指標であり、KGIでも先行KPIでもない。
| 層 | 問い | リードタイム周辺の指標例 | 評価に使ってよいか |
|---|---|---|---|
| KGI(最終成果) | 事業にどう効いたか | 納期遵守率/受注高/在庫を含めた利益 | 使える(組織・部門単位で) |
| 中間KPI(遅行) | 速く・ばらつかずに届いているか | 生産リードタイム/出荷リードタイム/商談期間 | 自動取得なら使える。申告ベースなら管理に回す |
| 先行KPI(行動) | 今日、何を変えるか | 前工程完了から次工程着手までの時間/当日着手率/仕掛件数 | 管理に使う。レビュー会議の材料にする |
3層の考え方そのものはKGI・KPI・KDIの違いに整理している。
リードタイムで特に注意したいのは、評価に使えるかどうかがデータの取得方法で変わる点だ。システムのログから自動で取れるリードタイム(受注登録時刻、出荷実績時刻など)は、本人が操作できないので遅行指標として評価に載せられる。一方、作業者が日報に書く着手日・完了日から計算したリードタイムは、本人が操作できる。これを評価に紐づけると、改善されるのは工程ではなく記録になる。評価と管理の線引きはKPIを人事評価に使うと数字が歪むを参照されたい。
なお、「当日着手率」のような行動量を評価に入れるかどうかは、仕組みの段階で変わる。着手の習慣が定着していない立ち上げ期は、あえて評価に載せて文化にするほうが回り始める。定着後は量だけを見続けず、その行動が実際にリードタイム短縮につながっているかと並べて見る。この論点は営業日報は何のためにあるのかに集約している。
工程に分解して先行指標に落とす
ここが本記事の主役だ。リードタイムは足し算で分解できる。
リードタイム = 正味作業時間の合計 + 工程間の待ち時間の合計
実測すると、多くの現場で待ち時間が全体の大半を占める。加工そのものは数時間なのに完成までに2週間かかる、提案書の作成は1日なのに受注までに3か月かかる——こうしたケースで短縮の余地があるのは、作業の速さではなく待ちの側だ。「もっと速く作業しろ」が的を外すのは、触っていない変数を押しているからである。
分解から先行KPIに落とすまでの手順は次の5ステップになる。
ステップ1:起点と終点を文字で書いて合意する
「受注リードタイム」が、受注登録からなのか、引き合いの発生からなのか、正式発注からなのか。営業と製造で起点が違えば、同じ案件が別の日数になる。最初に1行で定義を書き、関係部署で読み合わせる。
ステップ2:工程の区切りを決め、通過時刻を記録する
区切りは細かすぎても続かない。まずは4〜6個でよい。製造なら「受注→生産指示→着手→加工完了→検査完了→出荷可能」。営業なら「初回接触→要件確認→提案→稟議提出→受注」。それぞれの通過時刻を記録する。
ステップ3:正味時間と待ち時間に分ける
各区切りの間を、実際に誰かが手を動かしていた時間と、次の誰かを待っていた時間に割る。ここで初めて「リードタイムの正体」が見える。
ステップ4:最大の待ちを1つだけ選ぶ
複数の工程に同時に手を入れると、どれが効いたか分からなくなる。最も長く滞留している工程を1つだけ選ぶ。どの工程を選ぶかの判断は、制約理論の考え方が使える(KPIのボトルネックを見つける方法)。
ステップ5:その待ちを生んでいる行動を先行KPIにする
待ちの正体は、ほとんどの場合「次の担当者が着手していない」か「判断が出ていない」のどちらかだ。そこで先行KPIは時間そのものではなく、行動の実行率に置く。
| 分解して出てきた待ち | 待ちの正体 | 先行KPI(行動) |
|---|---|---|
| 生産指示から着手までの滞留 | 図面・材料・治具が揃っていない | 着手前チェックの完了率/指示当日の段取り着手率 |
| 加工完了から検査完了までの滞留 | 検査が工程末にまとめられている | 工程内検査の実施率/検査待ち件数 |
| 稟議提出から決定までの滞留 | 決裁者が商談に入っていない | 決裁者同席率/稟議資料の事前送付率 |
| 提案から次回接触までの滞留 | 次回の日程が決まっていない | 商談当日の次回日程確定率 |
| 工程全体に薄く広がる滞留 | 仕掛が多すぎて順番待ちしている | 1人あたり仕掛件数(上限を決める) |
最後の行は見落とされやすい。案件を多く抱えるほど、1件あたりのリードタイムは伸びる。 手持ちが増えれば、どの案件も順番を待つ時間が長くなるからだ。リードタイムを縮めたいとき、新しい案件を止めて仕掛を減らすのが最も速い打ち手になることは珍しくない。分解の型そのものはKPIツリーの作り方に整理している。
単独で追うと何が壊れるか
リードタイムには必ずトレードオフの相手がいる。短縮だけを目標にすると、相手側が黙って悪化する。ペアで置いて初めて設計になる。
| 短縮の対象 | 単独で追うと起きること | ペアで置く指標 |
|---|---|---|
| 生産リードタイム | ロットを小さくして段取り回数が増え、単位原価が上がる | 段取り時間/製造原価率 |
| 出荷リードタイム | 在庫を厚く持って対応し、運転資金が寝る | 在庫回転率/欠品率 |
| 商談期間 | 決まりやすい小型案件に寄り、平均単価が下がる | 平均受注単価/大型案件の構成比 |
| 全体の平均リードタイム | 平均は縮むが、遅い案件はそのまま残る | 納期遵守率/上位10%の遅い案件の日数 |
| 申告ベースのリードタイム | 記録のタイミングが調整される | 自動取得率/記録と実態の突合件数 |
4行目は特に重要だ。顧客が感じているのは平均ではなく、自分の案件が約束どおりに届いたかどうかである。平均リードタイムが縮んでも納期遵守率が動いていなければ、改善されたのは社内の数字だけだ。速さの指標には、必ずばらつきか約束の遵守を並べる。
