本記事は50社以上の成長支援を手がけるKPIコンサル・岩田圭弘が解説します。
トップセールスをマネージャーに登用した。ところが半年後、チームの数字は伸びていないのに、本人は誰よりも商談に出ている——。多くの組織で起きるこの現象の原因は、本人の資質でも覚悟でもない。管理職の評価指標が、プレイヤー時代の指標の延長のままになっているという設計の問題だ。この記事では、マネージャーの評価に使ってよいKPIと、管理にだけ使うべきKPIをどう分けるのか、その具体的な手順を解説する。
「チームの合計」で評価すると、マネージャーはプレイングに逃げる
管理職の評価で最も多い形は、担当チームの売上合計に、本人の個人受注額を加えるものだ。一見すると成果に対して公正に見える。だが、この設計はマネージャーに対して明確なメッセージを送っている——今期の合計さえ積めば評価される、と。
そして、チームの合計を最も確実に、最も早く積む方法は、マネージャー自身が売ることである。ベテランが大型案件を自分で持てば、期内の着地はほぼ確実に良くなる。育成は成果が出るまでに数四半期かかるが、自分で取れば今月中に数字になる。制度がプレイングを推奨しているのだから、プレイングに戻るのは合理的な判断だ。
問題は翌期以降に出る。マネージャーが難所の商談を自分で巻き取るたびに、メンバーはその商談を経験しない。経験しないから伸びない。伸びないからマネージャーがさらに巻き取る。この循環が数期回ると、チームは「マネージャー1人と、伸びないメンバーたち」という構造になり、合計の数字も最終的には落ちる。
管理職の評価が難しいのは、成果が本人の行動ではなく、他人の行動を通じてしか現れないからだ。だからこそ、何を評価に載せ、何を載せないかの線引きが、プレイヤー以上に効いてくる。
管理職評価が形骸化する3つの原因
原因1:評価との紐づけが、マネジメント行動そのものを歪める
最大の原因はこれだ。管理職の評価をチームの合計数字と個人成績に直結させると、次のような行動が確実に発生する。
- 案件の付け替え:メンバーが起こした有望案件を、確実に決めるという名目で自分の担当に移す
- 配分の偏り:確度が高く単価の大きい引き合いを、育成余地のあるメンバーではなく実績のあるメンバー(または自分)に寄せる
- 育成の後回し:同行や振り返りの時間が、期末に近づくほど自分の商談で埋まる
- 低評価メンバーの押し出し:伸び悩んでいるメンバーを育てるより、異動や配置換えで自チームの外に出したほうが数字が良くなる
- チーム間の非協力:他チームへの引き継ぎやナレッジ共有は、自分の評価には1円も寄与しない
- レビュー会議での隠蔽:自チームの不振を出すことが自分の査定に直結するため、「見込みは十分あります」という報告が続く
最後の1つは特に重い。マネージャーが実態を出さなくなった瞬間、経営から見た事業の解像度はゼロになる。現場の数字が歪むより、マネージャー層の報告が歪むほうが、事業へのダメージははるかに大きい。
原因2:評価項目が「リーダーシップ」「部下育成」で止まっている
もう一つの典型が、マネジメント面を「リーダーシップ」「部下育成」「組織貢献」といった項目にして5段階で採点する形式だ。これらは行動として定義されていないため、採点は評価者の印象になる。そして被評価者から見ると、明日から何をすればその点数が上がるのかが分からない。行動に翻訳できない評価項目は、納得感も改善効果も生まない。
原因3:管理職の目標だけ、期中に一度も見返されない
メンバーのKPIは週次・月次で追いかけているのに、マネージャー自身の目標は期初に立てて期末に採点するだけ、という組織は多い。これだとマネジメントの改善サイクルが年1回になる。メンバーより長いサイクルで自分を見ている人が、メンバーの週次の改善を指導するという矛盾が起きる。
3層フレームで設計する——管理職はどの層で評価するか
KPIは、KGI(最終成果)→中間KPI(遅行指標)→先行KPI(行動指標)の3層で設計する。管理職の評価も、この3層の上に線を引く。ただしプレイヤーと違い、中間KPIの選び方が決定的に重要になる。
| 層 | 役割 | 管理職での指標例 | 評価に使ってよいか |
|---|---|---|---|
| KGI(最終成果) | チームの成果そのもの | チーム粗利額・チーム受注額 | 使ってよい。ただしこれ単独では、プレイングで達成できてしまう |
| 中間KPI(遅行)=再現性の層 | 成果が「誰によって」生まれたかを測る | 目標達成メンバー比率・新メンバーの立ち上がり日数・継続率 | 使ってよい。ここが管理職評価の主戦場 |
| 先行KPI(行動) | マネージャー自身の行動量 | 同行商談数・1on1実施率・レビュー会議の開催率 | 評価には使わない。管理に使う。本人が完全に操作できる |
評価に使ってよいのは結果KPI(KGIと、操作しにくい中間KPI)までで、先行KPI=行動指標を評価に紐づけると即座に形骸化する。この線引きの全体像はKPIを人事評価に使うと数字が歪む|「評価するKPI」と「管理するKPI」を分ける設計法で解説しており、本記事はその各論——管理職という、成果が他人経由でしか現れない層をどう評価するか——にあたる。
そのうえで、管理職に固有の結論はこれだ。マネージャーの評価軸は「チームの合計」ではなく「チームの再現性」に置く。
合計はプレイングで積める。だが再現性はプレイングでは絶対に作れない。目標を達成するメンバーが何人いるか、新しく入った人がどれだけ早く立ち上がるか——これらの指標は、マネージャーが自分で売っている限り一切改善しない。プレイングで上げられない指標を主軸に置くことが、プレイングへの逃避を防ぐ唯一の設計である。
3層構造そのものの考え方はKGI・KPI・KDIの違いを参照してほしい。
主要指標と「評価に使ってよいか」一覧
営業組織を例に、管理職評価の候補になる指標を仕分けたのが次の表だ。
| 指標 | 種別 | 評価/管理 | 理由 |
|---|---|---|---|
| チーム粗利額 | 遅行(KGI) | 評価 | 成果そのもの。ただし単独主軸にすると、プレイングで達成できてしまう |
| 目標達成メンバー比率 | 遅行(中間) | 評価 | 合計では見えない再現性を測る。マネージャーが自分で売っても改善しない |
| 新メンバーの立ち上がり日数 | 遅行(中間) | 評価 | 育成の成果が数字で現れる数少ない指標。母数が小さい期は複数期の移動平均で見る |
| チームの契約継続率 | 遅行(中間) | 評価 | 顧客側の行動で決まるため操作しにくい。無理な取り方の抑止にもなる |
| パイプライン予測と着地の乖離 | 遅行(中間) | 条件付き評価 | 案件を正しく見ている証拠になる。低めに申告して当てる操作を防ぐため、上振れ・下振れの両方を絶対値で見る |
| マネージャー個人の受注額 | 遅行(KGI) | 主軸には使わない | 評価の主軸に置くと、制度がプレイングを推奨することになる |
| メンバーの離職率 | 遅行 | 評価に使わない(参考値) | 点数化すると、辞めそうな人を抱え込む・問題提起を封じるという副作用が出る |
| 同行商談数 | 先行(量) | 管理 | 点数化すると「顔を出すだけの同行」が量産される。数ではなく中身が効く行動 |
| 1on1実施率・レビュー会議開催率 | 先行(量) | 管理 | 実施したという形式だけが整う。開催の有無より、そこで何が更新されたかが本質 |
| チームの型実施率(メンバーの行動の型) | 先行(型) | 管理 | マネージャーの評価に載せると、実施率を上げるための形式的な入力を促す |
| 「リーダーシップ」「部下育成」 | 定性(印象) | 評価に使わない | 行動として定義されていないため、評価者が変われば結果が変わる。改善指針にもならない |
表を見て分かるとおり、管理職の評価に使える指標も、やはり少ない。そして少なくてよい。評価項目を増やすほど操作可能な数字が増え、歪みの入口が増える。
KSFは「比較」から見つける——優れたマネージャーの差分をどう掴むか
管理職の評価項目を設計するとき、多くの組織は「あるべきマネージャー像」から逆算しようとする。だが実務で機能する成功要因(KSF)は、逆算では出てこない。成果を出しているマネージャーと平均的なマネージャーの差分を比較することでしか掴めない。
この比較作業は、次の3段階で進める。順番を飛ばすと必ず失敗する。
①データ・AIは、比較材料を大量に用意する
SFAのログ、カレンダーの時間配分、同行の分布、レビュー会議の議事録、メンバーごとの成長曲線——上位マネージャーと平均層の行動履歴を大量に並べる部分は、機械が圧倒的に速い。誰にどれだけ時間を使ったか、どの案件に介入したかを、記憶ではなく記録から出せる。
②人間が、本質的な違いを抽出し、型として言語化する
しかし材料をいくら並べても、そこから「チームの伸びを分けているのは何か」を一段抽象化し、1つの型として言葉にする作業は、ツールにもAIにもできない。これはマネージャーの上長やコンサルタントなど人間にしかできない仕事だ。「上位者は同行が多い」で止めれば単なる傾向の羅列になる。「上位者は、成績下位ではなく中位のメンバーに時間を割いている」「同行前に、その商談で見せたい型を1つだけ決めている」——ここまで言語化して初めて、他の人が真似できる型になる。
③人間が、その型が全員に実行可能かを判断する
さらに、抽出した差分がそのまま評価項目になるわけではない。「これは全員が実行できる型か、それとも特定のマネージャーの経験・人間関係・センスに依存していて再現できないものか」を判断する工程が要る。この実行可能性の判断も、人間の仕事だ。前職の人脈で決裁者を紹介できる、業界での知名度で相手が会ってくれる、圧倒的な商品知識でその場の質問にすべて答えられる——こうした行動はチームの成果に効いていても、他のマネージャーには再現できない。
そして本記事の核心はここにある。評価項目として使ってよいのは、③をくぐり抜けた「全員が実行できる型」だけだ。特定の人のセンスに依存する行動を評価項目に置くと、それは評価ではなく相性の判定になる。「あの部長のようにできているか」を採点する制度は、新任マネージャーから見れば理不尽そのものであり、納得感を最も損なう。行動の型化の方法論そのものはコンピテンシー評価とはで詳しく扱っている。
