本記事は50社以上の成長支援を手がけるKPIコンサル・岩田圭弘が解説します。
1on1を制度として導入し、全員のカレンダーに隔週30分の枠も入った。それでも半年経つと、その30分は近況を聞くだけの雑談か、数字の進捗を確認する短い詰めのどちらかに落ち着いている——。原因は、マネージャーの傾聴スキルが足りないことではない。1on1で扱う対象を決めていないことにある。この記事では、1on1で扱うべきものは何か、なぜKPIの進捗確認に使うと機能しなくなるのか、そして議題を「行動の型」に落とす具体的な手順を解説する。
1on1をKPIの進捗確認に使うと、部下は言い訳を準備してくる
1on1が最も壊れやすいのは、議題が「数字はどうなっている?」から始まるときだ。この問いを投げた瞬間、部下にとっての1on1は説明責任を果たす場になる。そして人は、説明責任を果たす場には準備をして臨む。準備されるのは打ち手ではなく、未達の理由である。
さらに、その場で話した内容が評価に反映されると分かっていれば、話す内容はもっと絞られる。うまくいっている案件の話は増え、詰まっている案件・失注しそうな案件・自分が苦手な工程の話は出てこなくなる。1on1の唯一にして最大の価値は「悪い情報が早く上がってくること」なのに、その価値だけが真っ先に失われる。
ここで押さえておきたいのは、これが1on1固有の問題ではなく、KPIを評価に紐づけたときに起きる歪みと同じ構造だという点だ。評価に接続された数字に対して、人は事業を良くする行動ではなく数字を良く見せる行動を取る。詳しくはKPIを人事評価に使うと数字が歪むで解説している。1on1は、その歪みが「発言」というかたちで表れる場所だと考えるとよい。
会議体は3つに分ける
組織の中で数字と人を扱う場は、次の3つに分離する。同じ週に全部やっても構わないが、目的・参加者・扱う対象を混ぜてはいけない。
| 会議体 | 目的 | 扱う対象 | 評価との関係 |
|---|---|---|---|
| KPIレビュー会議 | チームの数字が動かない原因を全員で探す | 中間KPI・先行KPIの推移と打ち手 | 切り離す。処遇の話は一切持ち込まない |
| 1on1 | 個人が型を実行できるようにする | 行動の型と、実行を阻んでいる障害 | 切り離す。発言を査定材料にしない |
| 評価面談 | 処遇を伝え、合意する | 結果KPI(KGI・操作しにくい中間KPI) | ここだけが評価の場 |
1on1は、この3つの中で唯一個人の行動の中身に踏み込む場だ。レビュー会議はチームの数字を扱うので個人の型までは降りられない。評価面談は結果を扱うので、行動を改善する時間がない。だから1on1が要る。
1on1が形骸化する3つの原因
原因1:評価との紐づけを部下が察知している
最大の原因はこれだ。人事評価シートに「1on1で合意した目標」を転記する運用にしていたり、マネージャーが1on1のメモを評価の根拠として提出していたりすると、部下はすぐに察知する。察知された時点で、1on1は面接になる。 苦戦している話、自信のない工程、失敗しかけている案件——本来1on1で最初に出てくるべき話題が、すべて消える。
原因2:議題が「進捗確認」で、KPIレビュー会議の縮小版になっている
「今月の受注はどうか」「パイプラインは足りているか」を1対1でやるのは、レビュー会議の劣化版でしかない。数字の推移はダッシュボードで見れば済む。1on1の30分を数字の読み上げに使うのは、最も高価な時間の使い方だ。
原因3:扱う対象が「結果」のままで、行動の型まで降りていない
「受注が足りない」で終わる1on1は、次の一手が決まらない。決まらないから、次回も同じ話をする。同じ話を3回すると、双方が「この時間は意味がない」と学習する。1on1で扱えるのは、本人が明日から変えられる粒度のものだけだ。それは結果KPIではなく、行動の型である。
3層フレームで見る——1on1が担当するのは最下層
KPIはKGI(最終成果)→中間KPI(遅行指標)→先行KPI(行動指標)の3層で設計する。1on1が扱うべきなのは、この最下層だ。
| 層 | 指標例 | 主に扱う場 | 評価に使ってよいか |
|---|---|---|---|
| KGI(最終成果) | 売上・粗利額 | 評価面談 | 使ってよい。処遇の主軸 |
| 中間KPI(遅行) | 受注率・平均単価・継続率 | KPIレビュー会議 | 条件付き。分母を本人が動かせない形にすること |
| 先行KPI(行動・型) | 型の実行率・記録の充足率 | 1on1 | 評価には使わない。管理と育成に使う |
先行KPIを評価に紐づけると、本人が完全に操作できるため即座に水増しが起きる。だが評価から外したうえで1on1の議題に置くと、同じ指標が「一緒に改善する材料」に変わる。指標の性質が変わるのではなく、置く場所で意味が変わるということだ。
1on1で扱う指標と「評価に使ってよいか」
営業組織を例に、1on1で扱う候補となる指標を仕分けたのが次の表である。
| 指標 | 種別 | 評価/管理 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 受注金額・粗利額 | 遅行(KGI) | 評価 | 成果そのもの。1on1では「原因を特定する入口」としてのみ触れる |
| 受注率 | 遅行(中間) | 条件付き評価 | 分母(商談登録)のルールが固まっていなければ管理にとどめる |
| 型の実行率(例:初回商談で決裁プロセスを確認できた比率) | 先行(型) | 管理 | 1on1の主対象。量ではなく手順の遵守を見る |
| 架電数・訪問数 | 先行(量) | 管理 | 最も水増しされやすい。評価に入れると質の低い接触が量産される |
| 失注理由の記録率 | 先行(行動) | 管理 | 評価に使うと、無難な理由だけが並び、改善の材料が消える |
| 相談・エスカレーションの早さ | 先行(行動) | 絶対に評価に使わない | 評価対象にした瞬間、問題は隠される。早く出す行動は歓迎されるべきもの |
| コンピテンシー項目の到達度 | 先行(型) | 育成に使う | 昇格判断の材料にはなりうるが、月次の点数化には向かない |
| 1on1の実施率 | 先行(行動) | 管理 | マネージャーの評価に紐づけると、形式的な15分が量産される |
最後の行は見落とされやすい。1on1の実施率をマネージャーの評価項目に入れると、1on1そのものが形骸化する。 実施率は運用のモニタリング指標として管理側に置き、評価には持ち込まない。
KSFは「比較」から見つける——1on1の議題も同じ手順で決める
1on1で扱う型は、「あるべき姿」から逆算しても出てこない。成果を出している人と平均的な人の差分を比較することでしか掴めない。この比較は3段階で進める。
①データ・AIは、比較材料を大量に用意する
SFAの活動ログ、商談の記録、議事録の文字起こし。上位者と平均層の行動を大量に並べる作業は、機械が圧倒的に速い。
②人間が、本質的な違いを抽出し、型として言語化する
材料を並べても、「勝敗を分けているのは何か」を一段抽象化し、1つの型として言葉にする作業は、ツールにもAIにもできない。マネージャーやコンサルタントなど人間にしかできない仕事だ。「上位者は初回訪問が早い」で止めれば傾向の羅列にすぎない。「上位者は、初回商談の場で決裁ルートと予算の出所を必ず確認している」まで言語化して初めて、他の人が真似できる型になる。
③人間が、その型が全員に実行可能かを判断する
抽出した差分がそのまま議題になるわけではない。「これは全員が実行できる型か、それとも特定の担当者の経験・人間関係・センスに依存していて再現できないものか」を判断する工程が要る。この実行可能性の判断も人間の仕事だ。前職の人脈で決裁者に直接会える、業界歴の長さで相手の内情を言い当てられる——こうした行動は成果に効いていても、他の人には再現できない。
1on1の議題に置いてよいのは、③をくぐり抜けた「全員が実行できる型」だけである。センスに依存する行動を「あの人のようにやってみて」と持ち込むと、それは指導ではなく人格の比較になる。型として言語化できないものは、1on1では扱えない。
