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KPI設計・フレーム2026-09-25

営業利益率とは|業界平均と比べても改善しない。販管費を「維持」と「投資」に分けて目標値を決める

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本記事は50社以上の成長支援を手がけるKPIコンサル・岩田圭弘が解説します。

営業利益率は毎月の試算表に必ず載っている。経営会議でも「今期は営業利益率◯%を目指す」と宣言される。それなのに、現場の数字は何も変わらない。業界平均と比べて「うちは低い」と確認し、期末が近づくと広告と採用を止めて帳尻を合わせる——そんな運用になっていないだろうか。

営業利益率が動かないのは、この数字に性質の違う2つのものが混ざっているからだ。本記事では、営業利益率を「維持のための費用」と「将来のための投資」に分けて読み直し、自社の構造から目標値を決める方法を解説する。

営業利益率とは(定義と計算式)

営業利益率とは、売上高に対して本業でどれだけ利益を残せたかを示す指標だ。

  • 営業利益 = 売上高 − 売上原価 − 販売費及び一般管理費(販管費)
  • 営業利益率 = 営業利益 ÷ 売上高
  • 言い換えると、営業利益率 = 粗利率 − 販管費率

売上高1億円、粗利4,000万円、販管費3,500万円なら、営業利益は500万円、営業利益率は5%になる。

定義はここまでで十分だ。問題は、この5%が「良い5%」なのか「悪い5%」なのかを、この数字だけでは判断できないことにある。

業界平均と比べても改善しない理由

図:同じ営業利益率5%でも中身は正反対(投資している5%と稼げていない5%)
図:同じ営業利益率5%でも中身は正反対(投資している5%と稼げていない5%)

営業利益率は典型的な遅行指標だ。月次で確定したときには、その数字を作った値付けも、採用も、広告出稿も、すべて終わっている。ここまではどの経営指標にも共通する話だが、営業利益率にはもう一つ固有の厄介さがある。

販管費の中に、「今の売上を保つための費用」と「来期以降の売上をつくるための投資」が区別されずに入っていることだ。

同じ営業利益率5%でも、中身は正反対でありうる。

  • 会社A:粗利率は高いが、営業人員と広告に大きく投資している。投資を止めれば利益率は一気に上がる
  • 会社B:投資はほとんどしていない。それでも管理コストが重く、5%しか残らない

Aは「利益を未来に回している5%」、Bは「構造的に稼げていない5%」だ。打ち手はまったく違う。Aに「利益率を上げろ」と言えば投資が止まり、成長が止まる。Bに「もっと投資しろ」と言えば赤字になる。

業界平均との比較が機能しないのも同じ理由だ。平均値には、投資期の会社と回収期の会社、原価構造の違う会社が混ざっている。混ざった数字同士を比べても、自社がどちらの5%なのかは分からない。 会計メディアが並べる「業界別の平均営業利益率」を眺めても打ち手が出ないのは、比較の精度の問題ではなく、比べている数字の性質の問題である。

3層フレーム上の位置づけ

図:営業利益率の3層設計(KGI→中間KPI→先行KPI)
図:営業利益率の3層設計(KGI→中間KPI→先行KPI)

営業利益率は、KGIとして置かれることも中間KPIとして置かれることもあるが、いずれにせよ遅行指標だ。本記事では、営業利益率の下にもう1段、「投資前営業利益率」と「投資率」という2本の中間KPIを挟む設計を提案する。

層指標種別主な責任者
KGI営業利益額、営業利益率遅行経営
中間KPI投資前営業利益率(粗利率 − 維持販管費率)遅行事業責任者
中間KPI投資率(成長投資 ÷ 売上高)とその回収状況遅行経営
先行KPI値引き申請率、1人あたり管理工数、投資案件ごとの回収指標(商談化数、新人の立ち上がり期間など)先行各部門

3層の考え方そのものはKGI・KPI・KDIの違いで整理している。

評価に使ってよい指標か

営業利益率は結果指標なので、評価に使うこと自体は可能だ。ただし、率だけで事業責任者を評価すると、最も簡単に率を上げる手段——投資を止めること——が選ばれる。 広告を止め、採用を止め、開発を後ろ倒しにすれば、今期の営業利益率は確実に上がる。そのツケは1〜2期後の売上で返ってくるが、そのときには評価はもう終わっている。

したがって事業責任者の評価には、営業利益率ではなく投資前営業利益率を使い、投資の判断と回収は経営が責任を持つ形に分けるのが筋だ。投資を削って上がった利益率は、評価上は何も改善していないことになる。評価と指標の関係はKPIを人事評価に使うと数字が歪むで詳しく扱っている。

販管費を「維持」と「投資」に分けて分解する(この記事の主役)

図:営業利益率=粗利率−維持販管費率−投資率の分解式
図:営業利益率=粗利率−維持販管費率−投資率の分解式

分解式は次の通りだ。

  • 営業利益率 = 粗利率 − 維持販管費率 − 投資率
  • 投資前営業利益率 = 粗利率 − 維持販管費率

投資前営業利益率は「いまの事業をいまの規模で回したとき、どれだけ残るか」を示す。これが事業の稼ぐ構造の健全性だ。投資率は「そこからどれだけを将来に回しているか」を示す。これは経営の意思決定そのものである。

営業利益率は、この2つの差として「結果的に決まる」数字にすぎない。だから目標は営業利益率に直接置くのではなく、2本に分けて置く。

各要素と先行KPIの対応

要素中身の例現場の先行KPI(例)
粗利率単価、原価率、商品ミックス値引き申請率、高粗利商品の提案比率
維持販管費率既存顧客対応の人件費、管理部門、家賃、既存システム費1人あたり管理工数、定型業務の自動化件数、契約更新時の再交渉実施率
投資率新規採用・育成、新規顧客向け広告、新商品開発、新拠点投資案件ごとの回収指標(広告なら商談化数、採用なら立ち上がり期間、開発ならリリース後の利用数)

粗利率そのものの読み方は粗利率の記事、先行KPIに落とす方法は財務KPI設計ガイドで解説しているので、本記事では繰り返さない。本記事が扱うのは、販管費の側だ。

5ステップで設計する

図:維持と投資を分けて営業利益率を設計する5ステップ
図:維持と投資を分けて営業利益率を設計する5ステップ

ステップ1:販管費の各項目を「維持」と「投資」に仕分ける

判定基準は1つでいい。「この支出を今期ゼロにしたら、落ちるのは今期の売上か、来期以降の売上か」。今期の売上が落ちるなら維持、来期以降が落ちるなら投資だ。既存顧客を担当する営業の人件費は維持、新規開拓のために増員した営業の人件費は投資になる。同じ勘定科目の中でも分かれるので、科目単位ではなく目的単位で仕分ける。精度は粗くてよい。

ステップ2:投資前営業利益率の推移を出す

過去数期分を同じ基準で仕分け直し、投資前営業利益率の推移を見る。ここが下がり続けているなら、投資の多寡とは関係なく、稼ぐ構造そのものが劣化している。逆に、営業利益率は低くても投資前営業利益率が安定していれば、それは投資判断の結果であって、事業が弱っているわけではない。

ステップ3:投資率は成長目標から逆算して決める

投資率は「残った分を投資に回す」ではなく、「この成長率を狙うなら、これだけの投資が要る」から逆算する。そのうえで、投資前営業利益率から投資率を引いた値が、今期の営業利益率の目標になる。営業利益率の目標値は、他社の平均ではなく、自社の稼ぐ構造と成長目標の組み合わせから決まる。

ステップ4:投資案件ごとに回収指標と期限をつける

投資として仕分けた支出には、必ず「何がいつまでに起きれば回収に向かっていると言えるか」を決める。広告なら3ヶ月以内の商談化数、採用なら入社後の立ち上がり期間、新商品なら半年後の利用数といった形だ。期限までに回収指標が動かなかった投資は、止めるか、維持費として付け替えて投資前営業利益率の側で評価する。

ステップ5:月次で2本を分けてレビューする

月次の会議では、営業利益率を1本で報告しない。投資前営業利益率の推移と、投資案件ごとの回収状況を分けて見る。前者は事業責任者の議題、後者は経営の議題だ。運用の設計はKPIマネジメントの運用PDCAを参照してほしい。

単独で追うと何が壊れるか(トレードオフ)

図:営業利益率を単独で追うと壊れるものとペアで置く指標
図:営業利益率を単独で追うと壊れるものとペアで置く指標

営業利益率を単独で追うと、壊れる相手ははっきりしている。売上成長率だ。

押す方向起きることペアで置く指標
営業利益率を上げる(投資を削る)今期は改善するが、1〜2期後に新規獲得と開発が細り、売上成長が止まる売上成長率、新規商談の創出数
営業利益率を上げる(維持費を削る)既存顧客の対応品質が落ち、解約と離職が増える既存顧客の継続率、従業員の定着率
売上成長を優先する(投資を増やす)回収の見込みがない支出まで「投資」と呼ばれ、利益率が下がり続ける投資前営業利益率、投資案件ごとの回収指標

成長率と利益率を足し合わせて一つの目安にする考え方は、SaaS業界で「Rule of 40」として知られている。詳細はSaaS KPI 25指標の一覧に譲るが、SaaSに限らず、営業利益率は成長率とペアで置かなければ、ほぼ必ず投資の削減に振れる。

維持費の削減、とくに人件費の削減については、損益分岐点の記事で固定費削減のトレードオフとして詳しく扱っている。本記事の論点は、その手前の「そもそも削っている費用が維持なのか投資なのか」の区別にある。

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業種で「投資」の中身が変わる

何が成長投資にあたるかは、業種によって大きく違う。仕分けの際の目安として整理しておく。

業種成長投資の主な中身回収が見えるまでの時間見落とされやすい点
SaaS・ソフトウェア営業・マーケティング人員、広告、プロダクト開発長い(契約の継続で回収する)獲得投資と既存顧客の維持費が同じ部門に混在する
受託開発・コンサル採用と育成、新サービス開発中程度(育成期間に依存)育成中の人件費が維持費として扱われ、投資として見えない
製造業新製品開発、新規取引先の開拓、設備更新長い設備関連の費用は原価側に入ることが多く、販管費だけ見ても投資の全体が見えない
小売・飲食新規出店、販促、ブランド投資短〜中程度出店初期の赤字が既存店の利益率と混ざる

どの費用をどの科目に計上するかという会計上のルールは本記事の領分ではない。ここで言う「維持」と「投資」は、経営判断のための管理上の区分であり、決算書の区分とは別物として扱ってほしい。

改善の型:率を目標にする会議から、2本を分けて決める会議へ

図:Before/After 利益率が下がったときの会議の変化
図:Before/After 利益率が下がったときの会議の変化

Before:営業利益率を1本の目標として置いている場合

期初に「営業利益率◯%」と目標が置かれる。根拠は前年実績か業界平均だ。期中、利益率が目標に届かなさそうになると、最も即効性のある手段として広告と採用が止まる。期末には目標を達成する。翌期、新規の商談が細り、売上成長が鈍る。すると翌期も利益率を守るために投資が絞られる。これが繰り返されると、利益率は安定しているのに会社は縮んでいく。原因は、投資と維持費が1本の数字に混ざっているため、「投資を止めた結果の改善」と「稼ぐ力が上がった結果の改善」が区別できないことにある。

After:投資前営業利益率と投資率を分けて置いた場合

期初に決めるのは2つだ。事業責任者には投資前営業利益率の目標を、経営には投資率とその回収指標を置く。期中に利益率が下がったとき、会議はまず「どちらが原因か」を切り分ける。投資前営業利益率が下がっているなら、値引きや管理コストといった稼ぐ構造の議論をする。投資率が想定より膨らんでいるなら、回収指標の動いていない案件を止める。どちらも問題ないのに利益率が低いなら、それは期初に決めた投資の結果であり、誰も慌てる必要はない。

変わったのは数字の精度ではない。営業利益率が低いときに「何を削るか」を反射的に決めるのではなく、「どちらの数字が崩れたか」を見てから決めるようになることだ。

よくある失敗3パターン

1. 業界平均と比べて終わる

「同業の平均は8%、うちは5%」という比較から始めると、議論は「3ポイント足りない」で止まる。その3ポイントが投資の差なのか、稼ぐ構造の差なのかが分からないからだ。比べるなら、自社の投資前営業利益率の推移と、自社内の事業・商品別の差を比べる。社内比較の考え方は財務KPI設計ガイドで扱っている。

2. 何でも「投資」と呼んで利益率の低さを正当化する

維持と投資を分けると、今度は逆の問題が起きる。回収の見込みがない支出まで投資に仕分けられ、「うちは投資期だから」で低利益が説明されてしまう。これを防ぐのがステップ4の回収指標と期限だ。回収指標と期限のない支出は、投資と呼ばない。 このルールを最初に決めておく。

3. 期末に投資を止めて帳尻を合わせる

営業利益率の目標が1本で置かれていると、期末に広告・採用・開発の予算が凍結される。その期の数字は整うが、止めた投資の分だけ翌期の売上の種がなくなる。これは利益の改善ではなく、利益の前借りだ。期末に投資を止めた場合、その金額を「投資の繰り延べ」として別に記録し、翌期の会議で必ず確認する運用にすると、前借りが見えるようになる。

FAQ

Q. 営業利益率は何%を目指せばよいのか?

一律の正解はない。目標値は「投資前営業利益率」から「成長のために必要な投資率」を引いて決まる。成長を優先する時期は低く、回収を優先する時期は高くなるのが自然であり、目標値そのものより、2本の内訳が意図通りかを見るべきだ。

Q. 維持と投資の仕分けが曖昧な費用はどうするか?

迷ったら維持に入れる。投資に仕分けると回収指標と期限が必要になるため、説明できない費用を投資に入れるほうが運用上のリスクが大きい。仕分けの精度は、運用しながら四半期ごとに見直せば足りる。

Q. 投資前営業利益率は、決算書から計算できるのか?

できない。維持と投資の区分は管理会計上の区分であり、決算書には表れない。だからこそ社内でしか作れない指標であり、他社との比較ではなく、自社の意思決定のために使う。

Q. 中小企業でもこの分け方は必要か?

規模が小さいほど効果が大きい。販管費の総額が小さい会社では、採用1人や広告の出稿停止が利益率を大きく動かすため、「投資を止めたから改善した」ことが見えにくい。項目数が少ないぶん、仕分け自体も短時間で終わる。

Q. 営業利益率と営業利益額のどちらを主KPIにすべきか?

成長を優先する時期は額、効率を優先する時期は率を主にするのが基本だ。ただし、どちらを主にしても、投資前営業利益率と投資率に分けて読む設計は変わらない。

まとめ

営業利益率が業界平均との比較でも、率の目標設定でも動かないのは、この数字に「稼ぐ構造」と「将来への投資判断」という性質の違う2つが混ざっているからだ。

機能させる鍵は3つある。(1) 販管費を「今期の売上を保つ維持費」と「来期以降の売上をつくる投資」に分ける、(2) 事業責任者には投資前営業利益率を、経営には投資率と回収指標を持たせる、(3) 営業利益率は成長率とペアで置き、投資を止めて上がった利益率を改善と呼ばない。

営業利益率の目標値は、他社の平均から借りてくるものではない。自社の稼ぐ構造と、どれだけ成長したいかの組み合わせから、自分で決める数字だ。

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