本記事は50社以上の成長支援を手がけるKPIコンサル・岩田圭弘が解説します。
営業利益率は毎月の試算表に必ず載っている。経営会議でも「今期は営業利益率◯%を目指す」と宣言される。それなのに、現場の数字は何も変わらない。業界平均と比べて「うちは低い」と確認し、期末が近づくと広告と採用を止めて帳尻を合わせる——そんな運用になっていないだろうか。
営業利益率が動かないのは、この数字に性質の違う2つのものが混ざっているからだ。本記事では、営業利益率を「維持のための費用」と「将来のための投資」に分けて読み直し、自社の構造から目標値を決める方法を解説する。
営業利益率とは(定義と計算式)
営業利益率とは、売上高に対して本業でどれだけ利益を残せたかを示す指標だ。
- 営業利益 = 売上高 − 売上原価 − 販売費及び一般管理費(販管費)
- 営業利益率 = 営業利益 ÷ 売上高
- 言い換えると、営業利益率 = 粗利率 − 販管費率
売上高1億円、粗利4,000万円、販管費3,500万円なら、営業利益は500万円、営業利益率は5%になる。
定義はここまでで十分だ。問題は、この5%が「良い5%」なのか「悪い5%」なのかを、この数字だけでは判断できないことにある。
業界平均と比べても改善しない理由
営業利益率は典型的な遅行指標だ。月次で確定したときには、その数字を作った値付けも、採用も、広告出稿も、すべて終わっている。ここまではどの経営指標にも共通する話だが、営業利益率にはもう一つ固有の厄介さがある。
販管費の中に、「今の売上を保つための費用」と「来期以降の売上をつくるための投資」が区別されずに入っていることだ。
同じ営業利益率5%でも、中身は正反対でありうる。
- 会社A:粗利率は高いが、営業人員と広告に大きく投資している。投資を止めれば利益率は一気に上がる
- 会社B:投資はほとんどしていない。それでも管理コストが重く、5%しか残らない
Aは「利益を未来に回している5%」、Bは「構造的に稼げていない5%」だ。打ち手はまったく違う。Aに「利益率を上げろ」と言えば投資が止まり、成長が止まる。Bに「もっと投資しろ」と言えば赤字になる。
業界平均との比較が機能しないのも同じ理由だ。平均値には、投資期の会社と回収期の会社、原価構造の違う会社が混ざっている。混ざった数字同士を比べても、自社がどちらの5%なのかは分からない。 会計メディアが並べる「業界別の平均営業利益率」を眺めても打ち手が出ないのは、比較の精度の問題ではなく、比べている数字の性質の問題である。
3層フレーム上の位置づけ
営業利益率は、KGIとして置かれることも中間KPIとして置かれることもあるが、いずれにせよ遅行指標だ。本記事では、営業利益率の下にもう1段、「投資前営業利益率」と「投資率」という2本の中間KPIを挟む設計を提案する。
| 層 | 指標 | 種別 | 主な責任者 |
|---|---|---|---|
| KGI | 営業利益額、営業利益率 | 遅行 | 経営 |
| 中間KPI | 投資前営業利益率(粗利率 − 維持販管費率) | 遅行 | 事業責任者 |
| 中間KPI | 投資率(成長投資 ÷ 売上高)とその回収状況 | 遅行 | 経営 |
| 先行KPI | 値引き申請率、1人あたり管理工数、投資案件ごとの回収指標(商談化数、新人の立ち上がり期間など) | 先行 | 各部門 |
3層の考え方そのものはKGI・KPI・KDIの違いで整理している。
評価に使ってよい指標か
営業利益率は結果指標なので、評価に使うこと自体は可能だ。ただし、率だけで事業責任者を評価すると、最も簡単に率を上げる手段——投資を止めること——が選ばれる。 広告を止め、採用を止め、開発を後ろ倒しにすれば、今期の営業利益率は確実に上がる。そのツケは1〜2期後の売上で返ってくるが、そのときには評価はもう終わっている。
したがって事業責任者の評価には、営業利益率ではなく投資前営業利益率を使い、投資の判断と回収は経営が責任を持つ形に分けるのが筋だ。投資を削って上がった利益率は、評価上は何も改善していないことになる。評価と指標の関係はKPIを人事評価に使うと数字が歪むで詳しく扱っている。
販管費を「維持」と「投資」に分けて分解する(この記事の主役)
分解式は次の通りだ。
- 営業利益率 = 粗利率 − 維持販管費率 − 投資率
- 投資前営業利益率 = 粗利率 − 維持販管費率
投資前営業利益率は「いまの事業をいまの規模で回したとき、どれだけ残るか」を示す。これが事業の稼ぐ構造の健全性だ。投資率は「そこからどれだけを将来に回しているか」を示す。これは経営の意思決定そのものである。
営業利益率は、この2つの差として「結果的に決まる」数字にすぎない。だから目標は営業利益率に直接置くのではなく、2本に分けて置く。
各要素と先行KPIの対応
| 要素 | 中身の例 | 現場の先行KPI(例) |
|---|---|---|
| 粗利率 | 単価、原価率、商品ミックス | 値引き申請率、高粗利商品の提案比率 |
| 維持販管費率 | 既存顧客対応の人件費、管理部門、家賃、既存システム費 | 1人あたり管理工数、定型業務の自動化件数、契約更新時の再交渉実施率 |
| 投資率 | 新規採用・育成、新規顧客向け広告、新商品開発、新拠点 | 投資案件ごとの回収指標(広告なら商談化数、採用なら立ち上がり期間、開発ならリリース後の利用数) |
粗利率そのものの読み方は粗利率の記事、先行KPIに落とす方法は財務KPI設計ガイドで解説しているので、本記事では繰り返さない。本記事が扱うのは、販管費の側だ。
5ステップで設計する
ステップ1:販管費の各項目を「維持」と「投資」に仕分ける
判定基準は1つでいい。「この支出を今期ゼロにしたら、落ちるのは今期の売上か、来期以降の売上か」。今期の売上が落ちるなら維持、来期以降が落ちるなら投資だ。既存顧客を担当する営業の人件費は維持、新規開拓のために増員した営業の人件費は投資になる。同じ勘定科目の中でも分かれるので、科目単位ではなく目的単位で仕分ける。精度は粗くてよい。
ステップ2:投資前営業利益率の推移を出す
過去数期分を同じ基準で仕分け直し、投資前営業利益率の推移を見る。ここが下がり続けているなら、投資の多寡とは関係なく、稼ぐ構造そのものが劣化している。逆に、営業利益率は低くても投資前営業利益率が安定していれば、それは投資判断の結果であって、事業が弱っているわけではない。
ステップ3:投資率は成長目標から逆算して決める
投資率は「残った分を投資に回す」ではなく、「この成長率を狙うなら、これだけの投資が要る」から逆算する。そのうえで、投資前営業利益率から投資率を引いた値が、今期の営業利益率の目標になる。営業利益率の目標値は、他社の平均ではなく、自社の稼ぐ構造と成長目標の組み合わせから決まる。
ステップ4:投資案件ごとに回収指標と期限をつける
投資として仕分けた支出には、必ず「何がいつまでに起きれば回収に向かっていると言えるか」を決める。広告なら3ヶ月以内の商談化数、採用なら入社後の立ち上がり期間、新商品なら半年後の利用数といった形だ。期限までに回収指標が動かなかった投資は、止めるか、維持費として付け替えて投資前営業利益率の側で評価する。
ステップ5:月次で2本を分けてレビューする
月次の会議では、営業利益率を1本で報告しない。投資前営業利益率の推移と、投資案件ごとの回収状況を分けて見る。前者は事業責任者の議題、後者は経営の議題だ。運用の設計はKPIマネジメントの運用PDCAを参照してほしい。
単独で追うと何が壊れるか(トレードオフ)
営業利益率を単独で追うと、壊れる相手ははっきりしている。売上成長率だ。
| 押す方向 | 起きること | ペアで置く指標 |
|---|---|---|
| 営業利益率を上げる(投資を削る) | 今期は改善するが、1〜2期後に新規獲得と開発が細り、売上成長が止まる | 売上成長率、新規商談の創出数 |
| 営業利益率を上げる(維持費を削る) | 既存顧客の対応品質が落ち、解約と離職が増える | 既存顧客の継続率、従業員の定着率 |
| 売上成長を優先する(投資を増やす) | 回収の見込みがない支出まで「投資」と呼ばれ、利益率が下がり続ける | 投資前営業利益率、投資案件ごとの回収指標 |
成長率と利益率を足し合わせて一つの目安にする考え方は、SaaS業界で「Rule of 40」として知られている。詳細はSaaS KPI 25指標の一覧に譲るが、SaaSに限らず、営業利益率は成長率とペアで置かなければ、ほぼ必ず投資の削減に振れる。
維持費の削減、とくに人件費の削減については、損益分岐点の記事で固定費削減のトレードオフとして詳しく扱っている。本記事の論点は、その手前の「そもそも削っている費用が維持なのか投資なのか」の区別にある。

