この記事は、KPIの方法論の流れのうち「運用」の話です。全体像は KPIとは?意味と読み方を簡単に へ。
月曜の営業会議。壁に貼られたKPIツリーは、四半期の初めに全員で作ったものだ。ところが半年たった今、そのツリーを開いて数字を確認している人は一人もいない。入力欄は空白の日が増え、会議では別の資料で売上だけが報告されている。
ツリーの分解が悪かったわけではない。多くの場合、使われなくなる原因は運用にある。 この記事では、KPIツリーが使われ続けるための2つの条件と、岩田圭弘が支援先で重視している「集計の仕組み」「再クロ」「差が生まれる切り口」を整理する。ツリーの作り方そのものはKPIツリーの作り方に委ね、ここでは作ったあとの話だけを扱う。
KPIツリーが「使われている」とは何を指すか
図:KPIツリーが使われているための2つの条件
ツリーが使われているとは、貼ってあることではない。ツリーの末端の数字が日々更新され、それを見て誰かが次の行動を決めている状態を指す。この状態が崩れるのは、次の2つのどちらかが欠けたときだ。
- 計測できる状態があるか
- その計測を続けられる状態があるか
作ったときに前者だけを満たし、後者を設計していない会社が多い。
使われなくなる原因は、ツリーではなく運用にある
図:確認の工程が抜けるとツリーが形骸化する流れ
具体例で考える。計測の道具としてCRMを入れたとする。これで「計測できる状態」はできた。ところが、日々の入力が確認される仕組みがなければ、入力は少しずつ止まる。数字が欠ける。欠けた数字を見ても意味がないから、誰も見なくなる。そして「これは何のためにやっているのだったか」という声が出て、ツリーごと形骸化する。
ここで抜けているのは、PDCAのチェックだ。入力されているかを確認する工程がなければ、サイクルは最初の一周で止まる。
| 条件 | 満たしていない状態 | 起きること |
|---|
| 計測できる | 数える項目が定義されていない/入れる場所がない | そもそも数字が出ない。ツリーが絵で終わる |
| 続けられる | 入力されているかを確認する人と仕組みがない | 入力が止まり、数字が欠け、誰も見なくなる |
続けられる状態は「集計の仕組み」でつくる
図:入力・集計・確認の役割分担
続ける条件の中心は、集計の仕組みを作ることだ。確認はマネージャーが見るのが望ましい。だが、集計までマネージャーが手作業で行うと続かない。集計は営業事務の方などでも回せる。人の役割を分けて、集計を仕組みにしてしまうのが要点だ。
| 工程 | やること | 担い手の例 |
|---|
| 入力 | 営業が訪問・架電の結果を記録する | 営業担当者 |
| 集計 | 入力されているか、欠けがないかを定期的にまとめる | 営業事務など(マネージャーでなくてよい) |
| 確認 | 集計結果を見て、入力の遅れや偏りに手を打つ | マネージャー |
集計が人の頑張りに依存している間は、忙しい週に止まる。まず集計の手順と担当を決めて、毎回同じ形で出てくる状態を作る。確認する会議の設計はKPIマネジメントの運用PDCAで扱っているので、そちらを参照してほしい。
最初の入力は重い。うまくいかない前提で再クロを回す
図:立ち上げ期のチェック→修正のループ
導入の初期には、入力は必ず重い。支援先でも、リアルタイムに入力できないなどの問題が最初は出る。「入力を始めよう」と号令をかけた瞬間にうまくいく会社はほとんどない。
だから設計の前提を変える。最初からうまくいかないものとして、チェックと修正を何度も回す。 再度回す回数が、定着までの距離を決める。
立ち上げ期の回し方(4ステップ)
- 入力状況をチェックする。 誰が、どの項目を、いつ入力できていないかを集計から見る
- 入力できない理由を聞く。 項目が多すぎる/入力する場所が遠い/入力しても返ってこない、など、理由は個別に違う
- 入力の負担を減らす方向に修正する。 項目を減らす、入力のタイミングを揃える、など
- もう一度チェックする。 直したら終わりではなく、同じ集計でまた見る
このループを、立ち上げ期は意識して何周も回す。最初に完璧な入力フォームを作ろうとしないほうが、結果として早く定着する。
どこまで分解するか:必要十分まで
図:分解は必要十分まで、その先で差がつく
ツリーの枝をどこまで分けるか。基準は必要十分だ。細かく分けるほど正確に見えるが、計測と集計の負担が増え、続かなくなる。
営業であれば、まず次のプロセスが分かる状態を作る。
| 段階 | 見えるようになること |
|---|
| 電話をかける | 行動量 |
| コンタクト担当者につながる | 接続できたか |
| アポイントを取る | 面談の入口 |
| 面談をする | 面談数 |
| 展開をする | 案件化できたか |
| 受注する | 結果 |
このベーシックな流れは、多くの会社が押さえられる。差がつくのは、その先だ。
- 業種・規模などの属性を追えているか。 同じ面談でも、相手の業種や規模で結果は変わる。ここまで追いかけられている会社は少ないかもしれない
- 獲得率を上げる要因まで落とせているか。 次の節で扱う
差がどこで生まれるかを見つける:プライマリーKPI
図:プライマリーKPI=獲得率の差を最も説明する要因
岩田が「プライマリーKPI」と呼んでいるのは、獲得率などを上げたいときに、複数ある要因のうち、最も寄与度が高いものだ。
例えば、展開から受注につながる率(案件の獲得率)を上げたいとする。効いていそうな要因はいくつもある。決裁者の同席、見積提出、提案書提出などだ。この中で最も差を生んでいるものを見つけ、そこに現場の行動を寄せる。これがプライマリーKPIだ。
差が出る切り口もいくつか考えられる。
| 切り口 | 比べ方の例 | 分かること |
|---|
| 要因の有無 | 決裁者が同席した案件と、していない案件で獲得率を比べる | 同席が獲得率の差を生んでいるか |
| 規模 | 大手と中小で、獲得率や効く要因を比べる | 規模によって効く打ち手が違うか |
| 業種 | 業種ごとに獲得率や効く要因を比べる | 業種によって効く打ち手が違うか |
ここで大事なのは、正しく見られる切り口を用意しておくことだ。業種や規模を記録していなければ、そもそも比べられない。属性を追う仕組みが、プライマリーKPIの探索を支える。
なお、プライマリーKPIは営業KPI大全の判定区分(①-A 刈り取り型など)とは別の概念だ。判定区分は「評価に使ってよい行動か」の仕分けで、プライマリーKPIは「獲得率の差をどの要因が最も説明するか」を指す。判定区分の考え方は営業KPI大全に委ねる。
KPIツリーの作り方では、ボトルネックを広げる指標をPrimary KPIとして1・2個に絞る手順を書いた。ここで足すのはその候補を、「どの要因が差を最も説明するか」という寄与度の視点で選ぶという考え方だ。
世の中のKPIツリー解説と何が違うのか
世の中の解説の多くは、売上を要素に分解するところで終わる。分解は出発点にすぎない。指標は上げ続けなければならないので、分解のあとに次の2つが要る。
- 使い続けるための運用: 計測できる状態と、続けられる状態(集計の仕組みと再クロ)
- 上げるための手順: どの要因が最も効くかを切り口を変えて見つけ、そこに行動を寄せる
分解の図を作る力と、その数字を上げ続ける力は別物だ。差が出るのは後者である。
単独で追うと何が壊れるか(トレードオフ)
| 単独で追う数字 | 壊れるもの | 対にして置く数字 |
|---|
| 入力件数・入力率 | 入力の中身。埋めるための入力が増える | 入力の鮮度(当日入力できているか)、集計が会議で使われた回数 |
| ツリーの枝の数 | 運用の続けやすさ。計測と集計の負担が増える | 実際に更新されている枝の割合 |
| 獲得率だけ | 差の原因。上がっても何が効いたか分からない | プライマリーKPI(最も寄与度が高い要因)の実施状況 |
失敗3パターン
- 作って終わりにする。 分解図の完成を成果にしてしまい、集計と確認の担当を決めない。半年後に誰も見ていない
- 最初から完璧な入力を求める。 負荷が高すぎて入力が止まる。立ち上げ期は再クロの前提で、少ない項目から始める
- 属性を記録せずに要因を探す。 業種や規模のデータがなく、切り口を変えて比べられない。プライマリーKPIが見つからないまま、全項目を同じ重みで追うことになる
FAQ
Q1. 入力の確認は誰がやるべきですか。
A. 確認はマネージャーが見るのが望ましい。集計は営業事務の方などでも回せるので、集計の仕組みを作って分担する。
Q2. 入力が続かないときは、ツールを替えるべきですか。
A. その前に、入力できていない理由を聞くこと。項目の多さ、入力場所、入力しても返ってこないことが原因なら、ツールを替えても同じことが起きる。チェックと修正を何周か回すほうが先だ。
Q3. ツリーの枝はどこまで分けますか。
A. 必要十分までだ。営業なら、電話、担当者接続、アポ、面談、展開、受注の流れが分かる状態をまず作る。属性や獲得率の要因は、運用が回ってから足す。
Q4. プライマリーKPIはどう決めますか。
A. 獲得率などを上げたい指標について、決裁者同席、見積提出、提案書提出などの要因の有無で結果を比べ、最も差が出るものを選ぶ。規模や業種でも比べて、切り口によって結論が変わらないかを確かめる。
まとめ
- KPIツリーが使われなくなる原因は、分解ではなく運用にある。計測できる状態と、続けられる状態の両方が要る
- 続けるには、入力の確認(マネージャー)と集計(営業事務でも可)を分け、集計を仕組みにする
- 最初の入力は重い。うまくいかない前提で、チェックと修正の再クロを何周も回す
- 分解は必要十分まで。その先で、獲得率の差を最も説明する要因(プライマリーKPI)を、切り口を変えて探す
- 世の中の解説は分解で終わる。差が出るのは、使い続ける運用と、上げる手順だ
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