ガイド2026-10-19

KPIツリーの運用|作っても使われなくなる理由と、続けるための「集計の仕組み」

岩田 圭弘岩田 圭弘Exgrowth株式会社 代表取締役

この記事は、KPIの方法論の流れのうち「運用」の話です。全体像は KPIとは?意味と読み方を簡単に へ。

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月曜の営業会議。壁に貼られたKPIツリーは、四半期の初めに全員で作ったものだ。ところが半年たった今、そのツリーを開いて数字を確認している人は一人もいない。入力欄は空白の日が増え、会議では別の資料で売上だけが報告されている。

ツリーの分解が悪かったわけではない。多くの場合、使われなくなる原因は運用にある。 この記事では、KPIツリーが使われ続けるための2つの条件と、岩田圭弘が支援先で重視している「集計の仕組み」「再クロ」「差が生まれる切り口」を整理する。ツリーの作り方そのものはKPIツリーの作り方に委ね、ここでは作ったあとの話だけを扱う。


KPIツリーが「使われている」とは何を指すか

図:KPIツリーが使われているための2つの条件
図:KPIツリーが使われているための2つの条件

ツリーが使われているとは、貼ってあることではない。ツリーの末端の数字が日々更新され、それを見て誰かが次の行動を決めている状態を指す。この状態が崩れるのは、次の2つのどちらかが欠けたときだ。

  1. 計測できる状態があるか
  2. その計測を続けられる状態があるか

作ったときに前者だけを満たし、後者を設計していない会社が多い。


使われなくなる原因は、ツリーではなく運用にある

図:確認の工程が抜けるとツリーが形骸化する流れ
図:確認の工程が抜けるとツリーが形骸化する流れ

具体例で考える。計測の道具としてCRMを入れたとする。これで「計測できる状態」はできた。ところが、日々の入力が確認される仕組みがなければ、入力は少しずつ止まる。数字が欠ける。欠けた数字を見ても意味がないから、誰も見なくなる。そして「これは何のためにやっているのだったか」という声が出て、ツリーごと形骸化する。

ここで抜けているのは、PDCAのチェックだ。入力されているかを確認する工程がなければ、サイクルは最初の一周で止まる。

条件満たしていない状態起きること
計測できる数える項目が定義されていない/入れる場所がないそもそも数字が出ない。ツリーが絵で終わる
続けられる入力されているかを確認する人と仕組みがない入力が止まり、数字が欠け、誰も見なくなる

続けられる状態は「集計の仕組み」でつくる

図:入力・集計・確認の役割分担
図:入力・集計・確認の役割分担

続ける条件の中心は、集計の仕組みを作ることだ。確認はマネージャーが見るのが望ましい。だが、集計までマネージャーが手作業で行うと続かない。集計は営業事務の方などでも回せる。人の役割を分けて、集計を仕組みにしてしまうのが要点だ。

工程やること担い手の例
入力営業が訪問・架電の結果を記録する営業担当者
集計入力されているか、欠けがないかを定期的にまとめる営業事務など(マネージャーでなくてよい)
確認集計結果を見て、入力の遅れや偏りに手を打つマネージャー

集計が人の頑張りに依存している間は、忙しい週に止まる。まず集計の手順と担当を決めて、毎回同じ形で出てくる状態を作る。確認する会議の設計はKPIマネジメントの運用PDCAで扱っているので、そちらを参照してほしい。


最初の入力は重い。うまくいかない前提で再クロを回す

図:立ち上げ期のチェック→修正のループ
図:立ち上げ期のチェック→修正のループ

導入の初期には、入力は必ず重い。支援先でも、リアルタイムに入力できないなどの問題が最初は出る。「入力を始めよう」と号令をかけた瞬間にうまくいく会社はほとんどない。

だから設計の前提を変える。最初からうまくいかないものとして、チェックと修正を何度も回す。 再度回す回数が、定着までの距離を決める。

立ち上げ期の回し方(4ステップ)

  1. 入力状況をチェックする。 誰が、どの項目を、いつ入力できていないかを集計から見る
  2. 入力できない理由を聞く。 項目が多すぎる/入力する場所が遠い/入力しても返ってこない、など、理由は個別に違う
  3. 入力の負担を減らす方向に修正する。 項目を減らす、入力のタイミングを揃える、など
  4. もう一度チェックする。 直したら終わりではなく、同じ集計でまた見る

このループを、立ち上げ期は意識して何周も回す。最初に完璧な入力フォームを作ろうとしないほうが、結果として早く定着する。


どこまで分解するか:必要十分まで

図:分解は必要十分まで、その先で差がつく
図:分解は必要十分まで、その先で差がつく

ツリーの枝をどこまで分けるか。基準は必要十分だ。細かく分けるほど正確に見えるが、計測と集計の負担が増え、続かなくなる。

営業であれば、まず次のプロセスが分かる状態を作る。

段階見えるようになること
電話をかける行動量
コンタクト担当者につながる接続できたか
アポイントを取る面談の入口
面談をする面談数
展開をする案件化できたか
受注する結果

このベーシックな流れは、多くの会社が押さえられる。差がつくのは、その先だ。

  • 業種・規模などの属性を追えているか。 同じ面談でも、相手の業種や規模で結果は変わる。ここまで追いかけられている会社は少ないかもしれない
  • 獲得率を上げる要因まで落とせているか。 次の節で扱う

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差がどこで生まれるかを見つける:プライマリーKPI

図:プライマリーKPI=獲得率の差を最も説明する要因
図:プライマリーKPI=獲得率の差を最も説明する要因

岩田が「プライマリーKPI」と呼んでいるのは、獲得率などを上げたいときに、複数ある要因のうち、最も寄与度が高いものだ。

例えば、展開から受注につながる率(案件の獲得率)を上げたいとする。効いていそうな要因はいくつもある。決裁者の同席、見積提出、提案書提出などだ。この中で最も差を生んでいるものを見つけ、そこに現場の行動を寄せる。これがプライマリーKPIだ。

差が出る切り口もいくつか考えられる。

切り口比べ方の例分かること
要因の有無決裁者が同席した案件と、していない案件で獲得率を比べる同席が獲得率の差を生んでいるか
規模大手と中小で、獲得率や効く要因を比べる規模によって効く打ち手が違うか
業種業種ごとに獲得率や効く要因を比べる業種によって効く打ち手が違うか

ここで大事なのは、正しく見られる切り口を用意しておくことだ。業種や規模を記録していなければ、そもそも比べられない。属性を追う仕組みが、プライマリーKPIの探索を支える。

なお、プライマリーKPIは営業KPI大全の判定区分(①-A 刈り取り型など)とは別の概念だ。判定区分は「評価に使ってよい行動か」の仕分けで、プライマリーKPIは「獲得率の差をどの要因が最も説明するか」を指す。判定区分の考え方は営業KPI大全に委ねる。

KPIツリーの作り方では、ボトルネックを広げる指標をPrimary KPIとして1・2個に絞る手順を書いた。ここで足すのはその候補を、「どの要因が差を最も説明するか」という寄与度の視点で選ぶという考え方だ。


世の中のKPIツリー解説と何が違うのか

世の中の解説の多くは、売上を要素に分解するところで終わる。分解は出発点にすぎない。指標は上げ続けなければならないので、分解のあとに次の2つが要る。

  • 使い続けるための運用: 計測できる状態と、続けられる状態(集計の仕組みと再クロ)
  • 上げるための手順: どの要因が最も効くかを切り口を変えて見つけ、そこに行動を寄せる

分解の図を作る力と、その数字を上げ続ける力は別物だ。差が出るのは後者である。


単独で追うと何が壊れるか(トレードオフ)

単独で追う数字壊れるもの対にして置く数字
入力件数・入力率入力の中身。埋めるための入力が増える入力の鮮度(当日入力できているか)、集計が会議で使われた回数
ツリーの枝の数運用の続けやすさ。計測と集計の負担が増える実際に更新されている枝の割合
獲得率だけ差の原因。上がっても何が効いたか分からないプライマリーKPI(最も寄与度が高い要因)の実施状況

失敗3パターン

  1. 作って終わりにする。 分解図の完成を成果にしてしまい、集計と確認の担当を決めない。半年後に誰も見ていない
  2. 最初から完璧な入力を求める。 負荷が高すぎて入力が止まる。立ち上げ期は再クロの前提で、少ない項目から始める
  3. 属性を記録せずに要因を探す。 業種や規模のデータがなく、切り口を変えて比べられない。プライマリーKPIが見つからないまま、全項目を同じ重みで追うことになる

FAQ

Q1. 入力の確認は誰がやるべきですか。

A. 確認はマネージャーが見るのが望ましい。集計は営業事務の方などでも回せるので、集計の仕組みを作って分担する。

Q2. 入力が続かないときは、ツールを替えるべきですか。

A. その前に、入力できていない理由を聞くこと。項目の多さ、入力場所、入力しても返ってこないことが原因なら、ツールを替えても同じことが起きる。チェックと修正を何周か回すほうが先だ。

Q3. ツリーの枝はどこまで分けますか。

A. 必要十分までだ。営業なら、電話、担当者接続、アポ、面談、展開、受注の流れが分かる状態をまず作る。属性や獲得率の要因は、運用が回ってから足す。

Q4. プライマリーKPIはどう決めますか。

A. 獲得率などを上げたい指標について、決裁者同席、見積提出、提案書提出などの要因の有無で結果を比べ、最も差が出るものを選ぶ。規模や業種でも比べて、切り口によって結論が変わらないかを確かめる。


まとめ

  • KPIツリーが使われなくなる原因は、分解ではなく運用にある。計測できる状態と、続けられる状態の両方が要る
  • 続けるには、入力の確認(マネージャー)と集計(営業事務でも可)を分け、集計を仕組みにする
  • 最初の入力は重い。うまくいかない前提で、チェックと修正の再クロを何周も回す
  • 分解は必要十分まで。その先で、獲得率の差を最も説明する要因(プライマリーKPI)を、切り口を変えて探す
  • 世の中の解説は分解で終わる。差が出るのは、使い続ける運用と、上げる手順だ

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