← KPIナレッジ一覧に戻る
営業2026-05-25

スタートアップ営業のリアル|なぜ営業人数を増やすほど会社は失速するのか

KPI Growth Model 入門ガイド 表紙

Free Download

KPI Growth Model 入門ガイド

KPIを「測るだけ」から「動かす」に変えるためのフレームワーク全体像を15ページにまとめた資料です。

資料をダウンロードする

Part1 営業人数を増やすほど失速する会社の、たった一つの共通点

― それは「増やしたこと」ではなく、「止める判断」を誤っていること

スタートアップの営業について議論していると、ほぼ必ず出てくる反省があります。「営業を増やしすぎたのが失敗だった」「人を入れたせいで、逆に売上が伸びなくなった」「今思えば、あのタイミングで採用を止めるべきだった」――。

経営者として振り返ったとき、こう言いたくなる気持ちはよく分かります。ただ、私はこの結論に、ずっと違和感を持ってきました。なぜなら、本当に致命的だったのは「増やしたこと」ではなく、その後の「止め方」だったケースを、何度も見てきたからです。

営業採用は、なぜいつも「悪者」になるのか

営業は、スタートアップにおいて最も分かりやすくコストが増える部門です。人を一人採れば、その瞬間から毎月の固定費が増える。成果が出るまでには時間がかかる。しかも、売上は保証されていない。そのため、少しでも環境が悪化すると、真っ先に疑われます。そして多くの場合、営業採用は"結果論で否定される"

営業は「即効性のあるコスト」ではない

営業という仕事は、採用した瞬間に売上を生むものではありません。入社して、業界を理解して、プロダクトを理解して、トークを覚えて、商談を重ねて、ようやく成果が安定し始める。短くても数ヶ月、場合によっては半年以上かかります。つまり営業採用とは、将来の売上に対する先行投資です。

にもかかわらず、多くの経営判断はこうなりがちです。

  • 今月のPLが悪い
  • 販管費が予算を超えている
  • 投資家に説明しづらい

この「今」の数字を理由に、営業採用を止めてしまう。これは、投資の回収が始まる前に、投資自体を中断する判断に近い。

なぜ「止めた直後」は問題が見えないのか

営業採用を止めた直後、多くの会社ではこうなります。

  • 売上はまだ出ている
  • 既存顧客もいる
  • 既存メンバーも動いている

だから、「思ったより影響は小さい」「一旦止めても大丈夫そうだ」という錯覚が生まれる。

しかし実際に壊れ始めているのは、売上ではなく成長の根拠です。新しい商談が増えない、パイプラインが厚くならない、育成に時間を割けなくなる、リーダー候補が育たない――これらは、1ヶ月や2ヶ月では致命傷に見えません。ただし、半年後に確実に効いてくるダメージです。

営業失速の本当の始まりは、いつか

営業が本当に失速し始めるのは、採用を止めてからしばらく経った後です。商談数が伸びなくなる、一部のシニアに負荷が集中する、次に入る人を育てる余裕がなくなる――結果として、組織の歪みが広がり、成長速度が明確に落ちる。

「あのとき止めた判断、まずかったかもしれない」と気づいたときには、すでに手遅れになっていることも少なくありません。営業採用は後戻りがききません。再開しても、採用リードタイム、入社までの期間、立ち上がり期間を、もう一度すべて払う必要がある。

Part2 経営判断が食い違う会社は、見ている「数字」ではなく「時間軸」が違う

― なぜ同じ数字を見ているのに、判断が真逆になるのか

営業採用を止めるかどうか。この議論が始まった瞬間、多くのスタートアップで同じ現象が起きます。数字を見ているはずなのに、結論が割れる。

ある人は言います。「数字が悪い。だから止めるべきだ」。一方で、別の人は「数字が悪いからこそ、止めてはいけない」。どちらも数字を根拠にしている。それでも判断は真逆になる。

このズレの正体は、見ている数字の"時間軸"が違う――ただそれだけです。

経営会議で重視されがちな「短期の数字」

多くの経営会議で優先されるのは、今期のPL、予算との乖離、キャッシュ残高、投資家への説明可能性。これらはすべて、「今この瞬間をどう評価されるか」を測る数字です。経営として必要な視点ですが、営業グロースの判断には不十分です。

営業グロースで本当に見るべき数字

営業採用を続けるかどうかを判断するとき、見るべき数字の性質はまったく異なります。

  • 一人当たりの生産性
  • 回収期間
  • 商談数・面談数の推移
  • パイプラインの厚み

これらはすべて、未来の売上が再現可能かどうかを見るための数字です。営業は、改善の成果が数字に出るまで必ず時間がかかります。短期のPLだけで判断すると必ずブレます。

投資家説明が経営判断を歪める瞬間

もう一つ、判断を歪めやすい要因が投資家への説明です。営業採用を止めると、短期的にはPLがきれいに見える。説明はしやすい。ただしその代償として、半年後・一年後のトップラインは確実に弱くなります。

ここで問うべきは一つです。これは事業のための判断か、評価のための判断か。

一人当たり生産性という「時間軸を超える指標」

短期と中長期をつなぐ数少ない指標が、一人当たりの生産性です。月いくらの粗利を生んでいるか、回収可能か、再現できるか。この指標は、短期のPLと中長期の成長の両方を同時に見られる判断軸です。

Part3 営業を止めた瞬間に、会社はゆっくり壊れ始める

― 成長はなぜ「遅れて失われる」のか

営業採用を止めたとき、「一旦止めても、意外と大丈夫そうだ」「売上はそこまで落ちていない」と感じます。この感覚は間違いではなく、営業という機能の特性上、自然に起きる錯覚です。営業は、止めた瞬間に崩れません。だからこそ、止める判断は危険になります。

営業が壊れるのは「結果」ではなく「根拠」から

営業採用を止めた直後、真っ先に壊れるのは売上ではありません。壊れるのは、売上を将来にわたって生み出せるという根拠です。

  • 新しい面談数が増えなくなる
  • 商談の母数が厚くならない
  • パイプラインが先細りする

しかしこの段階では、まだ売上は出ています。既存顧客がいる。過去に積み上げた商談も残っている。だからこそ、「問題は表面化していない」と錯覚する。

「質を上げればいい」という発想の落とし穴

営業の質を上げる施策(トーク改善、提案書改善、研修、プロセス見直し)で出せる改善幅は、実務上数%から多くても10%程度です。一方で、営業の「量」は人を投入する、稼働量を増やす、条件が整っていれば、20%、30%といった成長を比較的再現性高く作れます。質改善だけで継続的なグロースを作るのは、現実的にはかなり難しい。

営業採用は「後戻りできない投資」である

営業採用を一度止めて、再開しようとすると、すぐに元には戻りません。採用再開までのリードタイム、入社までの待ち時間、立ち上がり期間。営業採用は、止めるのは簡単だが、取り戻すのが難しい投資です。

KPI Growth Model 入門ガイド 表紙

Free Download

KPI Growth Model 入門ガイド

KPI Maturity Model の自社診断と Implementation Checklist(20項目)を収録。形骸化しないKPI設計の実装手順を一冊で。

資料をダウンロードする

Part4 それでも営業採用を止めるなら、最低限ここまで考えているか

― 経営判断として成立する「例外条件」

私は、営業採用を止めるべき局面も確実に存在すると考えています。問題は、その判断が「整理された基準」に基づいているかどうかです。

例外条件①:一人当たりの生産性が、明確な基準を下回っている

営業採用を止めるかどうかを考える際、最初に見るべき指標は一人当たりの生産性です。私が見ていた基準は、一人当たり月200万円の獲得粗利でした。

一時的に下回っていても、改善トレンドが見えているのであれば、止める理由にはなりません。継続的に下回り、改善しない、原因が分からない――この状態であれば、一度立ち止まる判断は合理的です。重要なのは「感覚」ではなく数字で説明できるかどうか

例外条件②:改善の仮説が立たず、打ち手が枯れている

生産性が未達でも、改善の余地があるなら話は別です。「トークを変えれば改善しそう」「ターゲットを見直せば変わりそう」――こうした仮説があり、実際に検証が回っているなら、採用を続ける意味はあります。

逆に、なぜ売れないのか分からない、何を変えればいいか分からない、施策を打っても検証できない――この状態で人数だけを増やすのは、再現性のない拡張になります。

例外条件③:勝ちパターンが存在していない

営業採用は、勝ちパターンの複製作業です。売れている人がいる、なぜ売れているかが分かる、他の人に移せそう――この状態が前提になります。

営業採用を止めるべきなのは、「営業が弱いとき」ではなく、営業の型が存在しないときです。

例外条件④:営業以上に、トップラインを伸ばせる代替策がある

すでに勝ち筋が見えている新規事業、大型アップセルが確定している、単価構造が大きく変わる見込みがある――これらが、数字で説明でき、時間軸が明確で、再現性があるのであれば、営業採用を一時的に止める判断も成立します。

一番まずいのは「止める理由が整理されていない状態」

最も危険なのは、一人当たり生産性は基準を超えている、改善余地も残っている、勝ちパターンも存在する、代替の成長策はない――それでも、不安だから、空気が悪いから、説明しづらいから、という理由で営業採用を止めるケース。経営判断として最も避けるべきケースです。

営業採用を止めるなら、必ずセットで決めること

それでも営業採用を止めるなら、最低限、次の3つは必ず決めるべきです。

  • どの指標が理由で止めるのか
  • 再開条件は何か
  • 再開までに何を整えるのか

これを決めずに止めると、組織は確実に混乱します。

Part5 営業採用は、経営が最後に切るべきカードである

― 成長率から逆算する、スタートアップの優先順位思想

営業採用を止めるかどうかは、単なる人員計画の話ではありません。それは、この会社は何を最優先で守るのかという思想の表明でもあります。

採用を止める「順番」を、経営は意識しているか

会社にはバックオフィス、開発、営業など、さまざまな機能があります。採用を止める順番という観点で見ると、同列に扱うべきではありません。

私の考えは明確です。止める順番は、バックオフィス → 開発 → 営業。逆に言えば、営業採用を最初に止める判断は、経営としてかなり危険なサインだと考えています。

なぜ営業は「最後」なのか

理由はシンプル。成長率に、最も直接的に寄与するのが営業だから。

  • バックオフィスは、直接的には寄与しない
  • 開発は、中長期で効いてくる
  • 営業は、最短距離で効く

この構造を無視して、「一律に採用を止める」「一番コストが見えるところから止める」という判断をすると、成長率は一気に落ちます。

「コストを下げる」と「成長を止める」は別物

営業採用を止める理由として、よく聞くのが「固定費を抑えたい」「今は守りのフェーズだ」。コストコントロールは重要ですが、必ず考えるべき問いがあります。

どのコストを下げているのか。成長に寄与しないコストか、それとも成長率を作っているエンジンか。営業採用を止める判断は、後者になりやすい。だからこそ、最後のカードであるべきなのです。

成長率が見えているなら、止める理由はない

その採用は、成長率に寄与しているか。

  • 一人当たりの生産性が基準を超えている
  • 先行指標が伸びている
  • トップラインの見通しが立っている

この状態であれば、営業採用を止める理由はありません。予実がズレていようが、説明がしづらかろうが、関係ありません。

営業採用を止める前に、必ず自問すべき問い

  • 営業以外に、同じだけ成長率を作れる打ち手はあるか
  • その打ち手は、数字で説明できるか
  • 半年後・一年後のトップラインを、本当に描けているか

この問いに即答できないなら、営業採用を止める判断は、再考したほうがいい。

あとがき:なぜ、いま「営業グロースの話」をあえて書いたのか

この記事では、営業のやり方やテクニックの話は、ほとんどしていません。代わりに書いたのは、営業をどう扱うかという「経営判断の思想」です。

理由はシンプルで、スタートアップが失速する場面を振り返ると、問題はいつも営業の現場ではなく、営業をどう判断したかにあったからです。営業は、止めた瞬間に壊れません。だからこそ、経営判断のミスに気づくのが遅れる。そして気づいたときには、簡単には取り戻せない状態になっている。

営業を止めるという判断が、どれほど重く、取り返しがつきにくいか――それを言語化したかった。なんとなくの空気や短期の数字で成長エンジンにブレーキを踏んでしまう前に、一度立ち止まって考える材料として、この記事を書きました。

ご相談・アドバイザリーのご案内

営業グロースの問題は「営業部門」だけでは完結しません。KPIの設計、一人当たり生産性の基準、採用を止める/続ける判断軸、事業サイドと人事サイドの連携、経営会議での意思決定の整理――これらはすべて、経営の意思決定設計そのものです。

Exgrowthでは、スタートアップや成長企業向けに、

  • 営業グロースの判断軸整理
  • KPI・生産性基準の設計
  • 採用・組織拡大の意思決定支援

といったテーマでアドバイザリー支援を行っています。一度壁打ちしてみたい方は、お気軽にご相談ください。

KPI Growth Model 入門ガイド 表紙

Free Download · Whitepaper

KPI Growth Model 入門ガイド

KPI Growth Model の全体像と実装手順を15ページに凝縮。社内でKPI設計の方向性を議論する際の共通言語としてお使いください。

資料をダウンロードする

関連するKPIナレッジ

営業

B2B SaaS営業の立ち上げ実践|稼働率最大化×デイリーKPI×Where→Why→Howで爆速成長B2B SaaS営業のゼロイチ立ち上げで、最初に意識すべきことは何か。アウトバウンドはどう設計するのか。営業組織はどう立ち上げるのか。

B2B SaaS営業のゼロイチ立ち上げで意識すべき3つのポイントを、キーエンス出身COOが解説。①個々の時間意識(アポの組み方・ボリューム最大化)、②KPIのデイリー見える化、③Where→Why→Howで問題解決。1ヶ月でインターン生がアウトバウンドアポを取れる仕組み化の知見。

続きを読む →
営業

フィールドセールスKPI設計|展開F/Nで受注を最大化するキーエンス流設計法 50社支援】

フィールドセールスKPI設計の決定版。IS/FS兼務×展開F/N×受注3軸分解で受注を最大化する実装法を、キーエンスとスタートアップCOO経験から解説。「商談を待つだけの営業」から脱却し、経営判断につながるFS KPI運用へ。50社支援の知見をまとめた実務ガイド。

続きを読む →
営業

インサイドセールスKPI完全ガイド|架電60件×コネクト率20%でアポ5倍にする9指標

インサイドセールスKPI設計の決定版。架電数だけの管理から脱却し、コネクト率・アポ率の3段階転換率で「100件でアポ1件→アポ5件」の成果5倍へ。不在/受付ブロックの分解、仮説ドリブンリスト設計、FS引き渡しKPIまで網羅。IS立ち上げ責任者向け実務ガイド。

続きを読む →

KPI設計のご相談はこちら

30分の無料相談で、貴社に最適なKPIの設計方針をお伝えします。

無料で相談する