「作り方はわかった。で、自分の課題ではどう書くのか」
ロジックツリーで詰まるのは、たいていここだ。手順を読んで納得しても、いざ自社の数字を前にすると手が止まる。型と実物のあいだには距離がある。
本記事はその距離を埋めるための例題集である。What・Why・Howの3種類それぞれに実例を並べ、さらに使用頻度が最も高い「売上」「受注件数」のテーマで実務的な分解パターンを示す。悪い例と良い例を対にして載せるので、自分のツリーがどちらに近いかを照らしながら読んでほしい。
定義や作り方の手順そのものはロジックツリーとは?4種類の使い分け・作り方・テンプレートにまとめている。
Whatツリーの例:要素分解
Whatツリーは「何で構成されているか」を割る。原因を探す前に、全体の地図を描く工程だ。
例1:売上を分解する
売上 = 客数 × 客単価
=(新規客数 + 既存客数)× 客単価
ただしこの形で止めると打ち手が出ない。Whatツリーの良し悪しは「どの切り口で割ったか」で決まる。 同じ売上でも、割り方によって見えるものが変わる。
| 切り口 | 分解 | これで見えること |
|---|---|---|
| プロセス(掛け算) | 面談数 × 展開率 × 獲得率 | どの工程で落ちているか |
| 顧客属性(足し算) | 新規 + 既存 | どちらの層が弱っているか |
| 商品別(足し算) | 製品A + 製品B + 製品C | どの商材が伸び悩んでいるか |
| チャネル別(足し算) | 直販 + 代理店 + Web | どの経路が詰まっているか |
実務では複数の切り口を試し、枝ごとに違う打ち手が出るものを選ぶ。どの枝を見ても同じ施策になるなら、その切り口で割る意味はない。
例2:コストを分解する
営業コスト = 人件費 + 変動費
人件費 = 人数 × 一人あたり人件費
変動費 = 案件数 × 案件あたりコスト
コストで注意したいのは、削減の打ち手が「人数を減らす」に直行しがちなことだ。案件あたりコストの枝まで下ろすと、「移動を減らす」「提案書作成の時間を削る」といった、人を減らさずに効く打ち手が見えてくる。
悪い例との対比
【悪い例】売上 = 営業力 + 商品力 + ブランド力
【良い例】売上 = 客数 × 客単価
悪い例は一見それらしいが、足し算として成立していないうえ、測定もできない。「営業力」は数字ではないので、現状値も目標値も入らない。Whatツリーの枝は必ず「数えられるもの」でなければならない。
Whyツリーの例:原因追及
Whyツリーは「なぜそうなっているか」をさかのぼる。Whatツリーで問題の所在を絞ったあとに使う。
例:受注件数が計画に届かない
受注件数が30件足りない
├─ なぜ? 面談数が足りない
│ ├─ なぜ? 架電数が足りない → 活動量の問題
│ └─ なぜ? 架電はしているがつながらない → リスト・時間帯の問題
├─ なぜ? 面談しても展開に至らない
│ ├─ なぜ? ターゲットがずれている → 選定基準の問題
│ └─ なぜ? デモで刺さっていない → 提案品質の問題
└─ なぜ? 展開したが競合に負けた
├─ なぜ? そもそも相見積もりが多い → 遭遇率の問題
└─ なぜ? 比較されると負ける → 競合負け率の問題
同じ「受注件数が足りない」でも、たどり着く真因は3系統に分かれる。 そして系統ごとに打ち手がまったく違う。活動量の問題なら架電管理、提案品質ならロープレ、競合負けならターゲティングか比較軸の設計だ。
「なぜ」を止める場所
よく「なぜを5回繰り返せ」と言われるが、回数は本質ではない。止める基準は「その原因に対して手が打てるか」である。
「なぜ架電数が足りないのか → 人が足りないから → なぜ人が足りないのか → 採用ができていないから」まで下りると、営業チームの手を離れてしまう。四半期で動かせる範囲を超えたら、そこが止めどきだ。
Howツリーの例:手段展開
Howツリーは「どうやって解決するか」を広げる。Whyツリーで真因を特定したあとに使う。
例:面談数を増やす
面談数を増やす
├─ 母数を増やす
│ ├─ 架電数を増やす(1日あたりの本数を決める)
│ ├─ リストを拡張する(既存業界の未接触企業を洗う)
│ └─ 流入を増やす(問い合わせ経由を営業に回す)
├─ 転換率を上げる
│ ├─ 架電の時間帯を変える
│ ├─ トークの冒頭20秒を作り直す
│ └─ 受付突破のパターンを共有する
└─ 取りこぼしを減らす
├─ 日程調整の返信を当日中にする
└─ 直前キャンセルのリマインドを入れる
Howツリーで大事なのは、末端が「明日やること」になっているかだ。「トークを改善する」では止まっていない。「冒頭20秒を作り直す」まで来て、はじめて担当者が動ける。
売上・受注件数の分解パターン
実務で最も使われるテーマなので、そのまま使える形を置いておく。
受注件数 = 既存案件 + 新規案件 - 競合負け数
既存案件 = 既存案件数 × 既存案件の獲得率
新規案件 = 面談数 × 展開率 × 展開獲得率
競合負け数 = 遭遇率 × 競合負け率
これはキーエンスで実際に使われていた分解だ。ポイントは3つある。
1. 既存と新規を足し算で割る。 多くの組織は当期の新規案件に注意が向き、既存案件の獲得率が静かに落ちていることに気づかない。合算した受注件数だけを見ていると、新規の増加が既存の劣化を覆い隠す。
2. それぞれを掛け算でプロセスに下ろす。 足し算で性質の違う塊に分け、掛け算で歩留まりを見る。この組み合わせが実務では効く。
3. 競合負け数を引き算で外に出す。 獲得率に混ぜず独立させると、「遭遇率 × 競合負け率」に割れる。そもそも競合と当たらずに勝つ(指名で勝つ)話と、当たったうえで勝つ話は、打ち手がまったく違うからだ。
この分解の背景と、なぜこの形が現場を動かすのかはロジックツリーとは?4種類の使い分け・作り方・テンプレートで詳しく解説している。営業ファネルの各指標の設計はフィールドセールスKPI設計とインサイドセールスのKPI設計にまとめた。
