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営業KPI2026-08-05

人は「得すること」より「損すること」に2倍強く反応する|プロスペクト理論と質問設計

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サマリー

  • 行動経済学の基礎理論であるプロスペクト理論は、人が利益と損失を非対称に評価すること(損失回避)を示している。
  • 同額の利益と損失であっても、人は損失の痛みを利益の喜びより強く感じる傾向があり、この非対称性は複数の実証研究で確認されている。
  • この理論は、商談における質問をどう組み立てるかに直接応用できる。
損失回避 ― 人は得より損に敏感
損失回避 ― 人は得より損に敏感

学術研究:損失回避という人間の基本傾向

図:損失回避の非対称性。同額でも「1万円を失う痛み」は「1万円を得る喜び」のおよそ2倍
図:損失回避の非対称性。同額でも「1万円を失う痛み」は「1万円を得る喜び」のおよそ2倍

Kahneman, D., & Tversky, A. (1979). "Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk." Econometrica, 47(2), 263-291.

本論文は、人間が不確実性の下でどのように意思決定を行うかを説明する理論として、行動経済学の基礎を築いた研究である。著者のダニエル・カーネマンは、この理論を含む一連の研究により2002年にノーベル経済学賞を受賞している。

プロスペクト理論の中核は「損失回避」と呼ばれる現象である。人は、同じ金額であっても、得ることの喜びよりも失うことの痛みを強く感じる。実証研究では、この非対称性はおおよそ2倍前後の強さで生じるとされており、1万円を得る喜びより、1万円を失う痛みの方が心理的に大きく評価される傾向が繰り返し確認されている。

さらに理論は、人が意思決定の基準点(現状)を起点に損得を評価すること、そして利益局面ではリスクを避け、損失局面ではリスクを取ってでも損失を回避しようとする傾向があることも示している。

実務への示唆:質問設計への応用

図:利益訴求型の質問と損失回避型の質問の対比。同じ論点でもどちら側から尋ねるかで心理的インパクトが変わる
図:利益訴求型の質問と損失回避型の質問の対比。同じ論点でもどちら側から尋ねるかで心理的インパクトが変わる

この理論は、商談における質問の組み立て方に直接応用できる。「導入すると何が得られるか」を尋ねる利益訴求型の質問と、「導入しない場合、何を失い続けることになるか」を尋ねる損失回避型の質問とでは、後者の方が心理的なインパクトが大きくなりやすい。

これは、顧客の現状維持バイアス(変化を避けようとする傾向)への対処法としても解釈できる。顧客が現状を変えない理由の多くは、変化に伴うリスクを過大評価していることにある。損失回避の観点から質問を設計することで、「変化しないことのリスク」を顧客自身に言語化してもらうことができる。

だから、営業組織は何をすべきか

  1. 質問を「得られるもの」と「失っているもの」の両面で設計する
  2. 「今、何を失っているか」を数値化して見せる
  3. 理論を悪用しない
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岩田の視点

損失フレームの質問は、SPINでいうI(示唆質問)に当たる。だがこの質問を、関係性ができていない商談の冒頭で投げるのは違和感が大きい。相手も本音を言ってくれない。これは「クロージングが上手い営業ほど、大型商談で負けている」で触れた、Iに入る前に聴く資格を作る必要があるという話と同じ構造だ。

だからこの質問は、クロージングの場面で組み込む

具体的には、次の2ステップだ。

  1. 「実際に気に入っていただけましたら、どういう機能がお役立てできそうですか?」と尋ねる
  2. その上で「冒頭にこんなお話をされていましたけれど、この業務ってこのまま放置するとどうなるんでしょうか?」と問いかける

ポイントは「冒頭にこんなお話をされていましたけれど」という一句だ。商談の最初に相手自身が語った課題に、クロージングで戻っていく。新しい失うものを持ち出すのではなく、相手が自分で言ったことを根拠にするから、自然に聞こえる。

この順序を実行するには、冒頭で相手が語った課題を商談記録に残しておく必要がある。残っていなければ、クロージングで戻る場所がない。

まとめ

人は得ることより失うことに敏感である、というのは行動経済学が半世紀近くかけて実証してきた知見である。商談における質問設計も、この非対称性を踏まえて「何を失っているか」を顧客自身に語らせる方向に組み立てることで、より本質的な課題認識を引き出しやすくなる。

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出典

学術文献

  • Kahneman, D., & Tversky, A. (1979). "Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk." Econometrica, 47(2), 263-291.

本記事の執筆・監修:50社以上の成長支援を手がけるKPIコンサル・岩田圭弘(Exgrowth株式会社 代表)

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