この記事は、営業の流れのうち「マネジメント|目標・評価・会議・育成・ツール」の話です。全体像は 営業KPI大全 へ。
キーエンスでは、毎日「受注速報」が届く。どこの会社が、何を買ったか。機密情報で、日々更新され、翌日には消えていく。
私は、それを自分のExcelに写していた。どういう会社か。何をしている会社か。なぜ売れたのか。自分で考えたり、実際に売った人に聞いたりして、1行ずつ書いた。
キーエンスに約10年いて、事業部の約100人を見てきた。成績が安定して上位の人と、そうでない人。その差を考えるとき、いつもこの作業に戻ってくる。トップセールスは、話し方が特別にうまい人というより、誰に売ればいいかを知っている人だった。
この記事では、トップセールスと普通の営業の差がどこにあるのか、才能は関係あるのか、自分が近づくには何をすればいいのかを、順に書く。
結論:差は3つ。行動量、狙い、ターゲット
先に答えを書く。
- 行動量:安定して成果を出す人は、圧倒的に量が多い
- 狙い:なぜその訪問に行くのか、何を持ち帰るのかを、行く前に決めている
- ターゲット:営業はだいたい7割が、訪問の前に決まっている。誰を狙うかが合っていれば、そこまで大きく外さない
図:トップセールスと普通の営業の差は3つ(行動量・狙い・ターゲット)
傾聴や相手の立場で考えることは、確かに大事だ。ただ、それは質の話で、測れない。読んだ翌日に、何を変えればいいのかが決まらない。この3つは、数えられるし、条件に書ける。
トップセールスとは
トップセールスという言葉は、2つの意味で使われる。経営トップが自ら行う営業と、売上が常に上位の営業担当者。この記事は後者を扱う。
普通の営業と、何が違うのか|差は中間層と比べると見える
差を見つけるとき、トップと下位だけを並べても、答えは出にくい。下位は、量もやっていないし、質も低いことが多い。スキルが足りない場合もある。差が大きすぎて、何が効いているのかが絞れない。
中間層と比べると、はっきりする。行動量は同じなのに、受注率が違う。そこに、本当の差が出てくる。
図:上位と下位だけでは差が絞れない。中間層を入れる
やっているのに成果が出ない中間層の理由は、突き詰めると2つしかない。
| 理由 | 見分け方 | 向き合うこと |
|---|
| そもそも行動量をやりきれていない | トップと並べると、量が明らかに少ない | 量の確保と、時間の使い方 |
| やりきっているが、やり方が違う | 量は同じなのに、受注率が低い | ターゲットと、訪問の目的 |
図:中間層が成果を出せない理由は2つ(量が足りないか、方向が違うか)
まず確かめるのは、量をやりきれているか。実際、やりきれていないケースは多い。量をこなしているのに成果が出ないときに、初めて方向を疑う。
差1:行動量|トップは月60件、中間層は月40件だった
キーエンスで私が見た水準感で言うと、トップの人が月60件ほどをこなしているとき、中間層は月40件程度ということがあった。業種や商材が違えば、水準は変わる。他社の目安にはならないが、「量が違う」という構造は、どこでも起きる。
ここで落とし穴がある。何を行動量と数えるかだ。訪問件数には、既存顧客への挨拶回りも入る。挨拶回りを増やせば、数字は増えるが、新しい案件は生まれない。
キーエンスでは、訪問件数ではなくデモ件数を重視していた。案件が発生する前の新規のお客様と、15分以上面談し、デモ機を出して実演した件数だ。新規であること、案件の前であること、15分以上であること、実演まで行うこと。この4つが揃って、初めて1件と数える。
定義を絞ると、ごまかしが利かなくなる。定義が、そのまま現場の行動を決める。
図:行動量は「デモ件数」で数える(4つの条件)
差2:狙い|行く前に3つ決めている
トップセールスは、訪問の前に3つのことを決めている。
- なぜその訪問に行くのか
- 訪問することで、何を持ち帰るのか
- ここで売りに行くのか、それとも次の紹介につなげるための訪問なのか
事前準備と、「必ず何かを持ち帰る」という姿勢が、非常に強い。漫然と行って「今日は仕方ない」で終わる人との差は、積み重なると大きい。
事前に決めて、事後に持ち帰ったものを残す形は、営業日報は何のためにあるのかで書いた、外報の考え方と同じだ。
図:狙いは、行く前に決めて、帰ってから残す
差3:ターゲット|営業の7割は、訪問の前に決まっている
量をこなしているのに成果が出ない人は、多い。そのとき、原因は訪問のクオリティよりも、ターゲットがそもそも合っていないことのほうが多い。
私は、営業はだいたい7割が訪問前に決まると思っている。誰を狙うか。ここが合っていれば、そこまで大きく外さない。
新人の頃を思い出すと、わかりやすい。新人でも、受注が出ることがある。それはデモが上手いからではない。ターゲットとタイミングが、たまたま良かったからだ。まさに今困っている人に、いいタイミングで会えれば、大方は成立する。逆に、今必要としていない人に買ってもらうのは、とても難しい。
筋のいいターゲットは、条件に書ける
「センスがある」と言われる営業は、つまりは筋のいいターゲットを見つけるのが上手い人だと、私は思っている。では、筋のいいターゲットとは何か。
例えば、ある測定の商材なら、「曲面の形状が多い部品を作る顧客」が売れやすい、というように。曲面が多いと、従来の接触式の測定では測りにくい。かといって、一般的な高精度の機器は価格が高く、手が届かない。だから、この商材を選ぶ理由がある。売れる理由と、顧客の状況がつながっている。
ここまで条件に落とせると、センスは要らない。条件に合う顧客を探せば、みんなできる。
私がやっていた、筋のいいターゲットの見つけ方
冒頭の受注速報が、これだ。
- 受注の情報を集める。毎日消えていくので、自分のExcelに写す
- 受注先ごとに3つを書く。どういう会社か、何をしている会社か、なぜ売れたのか
- 「なぜ売れたのか」は、自分で考える。実際に売った人に聞く
- 自分の担当エリアに、似た属性の企業がないかを探し続ける
逆も、同じくらい大事だ。失注した案件や、展開に至らなかった案件を分析する。特に新規事業では、最初は受注が出にくい。失注と不発の中に、当たっていないターゲットのヒントがある。受注した先と、受注できなかった先を並べるだけで、顧客像が見えてくる。失注の見方は、失注分析とはで書いた。
図:筋のいいターゲットは、受注先と失注先を並べて見つける
才能は関係あるのか|真似できるものと、できないもの
私の見立てでは、営業に才能やセンスと呼ばれるものは、あまり存在しない。本質は、適切な行動を取れているかどうかだ。
ただし、真似できないものはある。
前職のスタートアップに、自分の成功要因を言語化できていない営業がいた。提案書を毎回、属人的に作り、力技で売っていた。ほかのメンバーが同じやり方を真似しても、うまくいかなかった。
例えば、クロージングで顧客を厳しく問い詰めて売るスタイル。これは、その人のキャラクターだから成立している。ほかの人が真似をしたら、嫌われて終わりだ。こうした特殊なやり方は、真似させるべきではない。そもそも再現できない。
| 区分 | 中身 |
|---|
| 真似できる | 行動量、時間の使い方、狙うターゲットの条件、訪問の狙い |
| 仕組みにすれば真似できる | 商談の流れ、質問項目 |
| 真似できない | キャラクターに依存した強引なクロージング、毎回流れが違う商談 |
真似できるものを広げて、真似できないものは広げようとしない。組織の標準化の全体像は、営業の属人化を解消する方法にまとめた。
自分がトップセールスに近づくには|今日からできる3つ
- 自分の行動量を、定義を決めて数える。 挨拶回りが入らず、「案件の前の新規と会えた件数」だけを数える形にする。自分の商材に合わせて、条件は3〜4個に絞る
- 訪問の前に、3つを一行ずつ書く。 なぜ行くのか、何を持ち帰るのか、売りに行くのか紹介につなげるのか。書けない訪問は、行く理由が弱いサインだ
- 受注した先と、受注できなかった先を並べる。 3件ずつでもよい。どういう会社か、何をしている会社か、なぜ売れたのか。共通点を、ターゲットの条件として一文で書く
最初の1つだけ選ぶなら、3だ。量と狙いが整っても、ターゲットが合っていなければ、成果は動かない。
図:トップセールスに近づく、今日からできる3つ(数える・書く・並べる)
部下をトップセールスにしたいマネージャーへ
- 中間層を入れて比べる。 上位と下位だけでは、差が大きすぎて絞れない。エリアや商材、経験年数を揃えて、中間層の量と受注率を並べる
- 量か、方向かを分ける。 量が足りないなら量の確保。量が同じなら、ターゲットを見直す。トーク研修に入る前に、受注先と失注先を並べる
- 行動量の定義を絞る。 「訪問件数」のままでは、挨拶回りで数字が作れる。定義を絞った件数(デモ件数のようなもの)は、営業KPI大全の判定で刈り取り型の行動、定義のない訪問件数は空振りに分かれる。仕分けの全体は営業KPI大全にある
行動量は、本人の意思でこなせる。だから、仕組みの立ち上げ期には、評価に入れて定着させるのが有効だ。定着したあとは、量だけを見続けず、量と、その行動経由の商談化・受注の2軸に切り替える。歩合のような金銭報酬には直結させない。考え方はKPIを人事評価に使うと数字が歪むにある。日報の書式は、外報シート(無料テンプレート)を使うとそろえやすい。
比較の一般論(条件を揃える、件数の目安、差が出ても原因とは限らない点)は、KPI達成率の計算方法とKSFの見つけ方に委ねる。
FAQ
Q. 新人でもトップセールスになれるか。
A. 新人でも、受注が出ることはある。ターゲットの選定とタイミングが良ければ、デモが上手くなくても売れる。再現するには、運に頼らず、筋のいいターゲットの条件を書き出して、そこを狙うことだ。
Q. トップセールスの真似を、どこまでしていいか。
A. 行動量、時間の使い方、ターゲットの条件、訪問の狙いは真似してよい。キャラクターに依存したやり方は、真似しないほうがいい。
Q. 月60件、月40件は、自社にも当てはまるか。
A. 私がキーエンスの訪問営業で見た水準感で、業種や商材で変わる。自社の水準は、エリアや商材を揃えた社内の比較で確かめる。
まとめ
トップセールスと普通の営業の差は、才能ではなかった。行動量、行く前の狙い、そして誰を狙うか。この3つは、数えられるし、条件に書ける。
いちばん効くのは、ターゲットだ。受注した先と、受注できなかった先を並べて、売れる理由を一文で書く。受注速報をExcelに写していた私が、いちばん長く使い続けた習慣は、これだった。
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