用語解説#AI2026-10-13

失注分析とは|AIに分類させても打ち手は出ない。先に「分類の定義」と「迷ったら人に回す」を決める

岩田 圭弘岩田 圭弘Exgrowth株式会社 代表取締役

この記事は、営業の流れのうち「商談|案件にする」の話です。全体像は 営業KPI大全 へ。

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月次の営業会議で、AIが分類した失注の集計表が画面に映る。先月は「競合に負けた」が最多だった。今月は「タイミングが合わなかった」が最多になっている。営業の動きは変わっていないのに、最多の理由だけが入れ替わった。

誰かが聞く。「先月と同じ基準で分類しているのか」。誰も答えられない。AIに渡したのは失注メモだけで、分類の基準は毎回その場の指示文に書いていたからだ。

この記事では、失注メモをAIに分類させる前に 人が決めておくこと と、そのまま使える 分類用・集計用のプロンプト を整理する。

図:失注分析のAI活用|人が先に決める、AIが作業する、人が判断する
図:失注分析のAI活用|人が先に決める、AIが作業する、人が判断する

失注分析とは

失注分析とは、受注できなかった案件を分類・集計し、次の商談の進め方を変える材料にする取り組みである。よくある誤解は、「失注の理由を集めれば原因がわかる」というものだ。

理由は、本人が事後に振り返って書く 見立て である。見立ては書く人の記憶と都合で変わる。AIに分類させても、元が見立てである以上、きれいに整った見立ての一覧ができるだけだ。失注分析の価値は、集めた量ではなく、集めたものが 次の工程に接続しているか で決まる。

よく追われているKPIと、空振りする理由

失注分析でよく置かれるのは、失注件数、失注理由の一覧、失注分析レポートの作成数、AIによる失注要約の件数である。

空振りする理由は2つある。

  1. 出力が増えるだけで、見る人と見る場所が決まっていない。 AIで要約や分類を自動化すると、出力の量は一気に増える。増えた分を読む人がいなければ、実施件数だけが積み上がる。
  2. 理由が「逃げ場」に集まる。 自由に書かせると「価格」に集中しやすい。価格は誰も責めない理由だからだ。「追えなくなった」「次の約束を取れないまま止まった」といった、本人の行動に近い理由ほど書かれない。AIはその偏りを直さず、整えて見せる。

大全の判定で仕分ける

図:失注分析のKPIを営業KPI大全の判定で仕分ける
図:失注分析のKPIを営業KPI大全の判定で仕分ける

判定は営業KPI大全の5分類に従う。

図:失注分析のKPIを大全の判定で仕分ける(①-A/②/③)
図:失注分析のKPIを大全の判定で仕分ける(①-A/②/③)
KPI判定理由
失注理由の記録率(分母は失注全件)①-A 刈り取り(次の工程が定義されている場合)失注した全件が分母なので絞れない。記録の先に分析と打ち手の工程がなければ②に落ちる
失注確定の入力が期限内に行われた割合①-A 刈り取り分母は失注した全件で固定。放置された案件を残さない行動で、本人が今日から変えられる
失注分析レポートの作成数② 空振り作っても獲得率とつながらない。作成は成果ではない
AIが分類・要約した失注の件数② 空振り出力量を数えているだけ。自動で増えた件数は、読まれなければ売上に接続しない
失注件数・失注率③ 結果(評価に入れずモニタリング)獲得率の裏返し。本人が直接は動かせない。評価に入れると、失注を保留に書き換える動きが出る
失注理由に占める「価格」の割合③ 結果(診断用)高いときは、価格が真因なのか、分類の設計が逃げ場になっているのかを疑う材料として見る

分かれ目は、大全で示した問いと同じである。その数字が積み上がった先に、それを売上に変える工程が定義されているか。 分類の結果を読み、打ち手を決め、次の期に確かめる工程がある場合だけ、記録は①-Aになる。

AIに分類させる前に決める|MECEな分類の設計

AIは、定義された基準に沿って振り分ける作業を速くする。だが基準そのものは持っていない。基準がなければ出力はもっともらしく、毎回少しずつ違う。冒頭の「最多の理由が入れ替わった」は、AIの精度の問題ではなく、基準が毎回書き直されていたことが原因だった。

「価格+機能不足」では、モレる

失注理由を「価格」と「機能不足」の2つで分けている組織は多い。だがこの2つは失注の一部にしか触れていない。「検討が止まった」「決裁者に届かなかった」「競合に先行された」「追えなくなった」が抜け落ちる。モレた分類をAIに渡すと、AIはモレた案件を無理にどちらかへ押し込む。MECEの考え方そのものはMECEとはに委ね、ここでは失注に固有の切り方だけを書く。

第1階層:案件に何が起きたか(排他的な3つ)

図:失注の分類ツリー(A・B・Cと、Bの機能・非機能)
図:失注の分類ツリー(A・B・Cと、Bの機能・非機能)
図:失注の分類設計(A・B・C+Bの機能・非機能)
図:失注の分類設計(A・B・C+Bの機能・非機能)

最初の切り口は、理由ではなく 起きたこと で置く。1件の失注が必ずどれか1つに入り、2つには入らないようにする。

第1階層定義判定に使う事実
A 比較の土俵に乗らなかった顧客が検討そのものを止めた、または始めなかった提案書を出していない/比較検討の段階に入っていない
B 比較の土俵で選ばれなかった提案まで進み、競合・内製・現状維持のいずれかに決まった提案済み/決まった先が確認できている
C 自社が追えなくなった顧客の判断が出る前に、次の約束が途絶えた最後の商談で次回アポが入っていない/連絡が途絶えた日付

境界の判定は見立てではなく事実項目で行う。「提案書を出したか」「最後の商談で次回アポが入ったか」は、書く人によってぶれない。AIにとっても、メモの文面より事実項目のほうが拠り所になる。

第2階層:Bだけを、機能・非機能に分ける

「選ばれなかった」理由は、ソフトウェア開発の言葉を借りて 機能要件 と 非機能要件 に分けると整理しやすい。営業の商材がソフトウェアでなくても使える。

第2階層中身打ち手の持ち主
B-1 機能(要件を満たせなかった)顧客が必要とした働き・仕様を、自社の商材が持っていなかった商品・開発へのフィードバック
B-2 非機能(要件は満たしたが、条件で負けた)価格、導入時期、導入・運用の負担、サポート体制、実績、セキュリティ・規程への適合など提案設計・営業・契約条件

機能と非機能を分ける意味は、打ち手の持ち主が変わる ことにある。機能で負けたなら営業の努力ではなく商品へのフィードバックの話で、非機能で負けたなら提案や条件の設計で動かせる。「価格」を代表にしないのは、非機能の一項目にすぎないからである。

分類が使えるかを確かめる3つの問い

  • 直近の失注を10件取り出して、全件が1つの箱に入るか(モレの確認)
  • 2つの箱に入ると迷う件がないか(ダブりの確認)。迷うなら定義文か事実項目に曖昧さがある
  • 「その他」「要確認」が増えていないか。増えているなら、第1階層のどこかにモレがある

3つ目は毎月見る。分類は一度作って終わりではなく、「その他」「要確認」の増減で見直す対象である。

失注分析のプロンプト

分類の定義ができたら、プロンプトに固定して使う。毎回その場で指示文を書き換えないことが、冒頭の「最多の理由が入れ替わる」を防ぐ。AIに任せるのは 仮の振り分け と 件数の集計 までで、原因の判断と打ち手は人が決める。

プロンプト1:分類用

# 役割
あなたは営業の失注記録を分類する担当です。
原因の推定、評価、打ち手の提案はしません。分類だけを行います。

# 入力
案件ごとに、次の2つを渡します。
- 失注メモ(自由記述)
- 事実項目:提案書を出したか/最後の商談で次回アポが入ったか/決まった先(競合・内製・現状維持・不明)/決裁者と会えたか

# 分類の定義
第1階層(必ず1つだけ選ぶ)
A 比較の土俵に乗らなかった:顧客が検討そのものを止めた、または始めなかった。提案書を出していない。
B 比較の土俵で選ばれなかった:提案まで進み、競合・内製・現状維持のいずれかに決まった。
C 自社が追えなくなった:顧客の判断が出る前に、次の約束が途絶えた。最後の商談で次回アポが入っていない。

第2階層(Bの場合のみ選ぶ)
B-1 機能:顧客が必要とした働き・仕様を、自社の商材が持っていなかった。
B-2 非機能:要件は満たしたが、価格・導入時期・導入運用の負担・サポート体制・実績・セキュリティや規程への適合などの条件で負けた。

# ルール
1. 根拠は、失注メモと事実項目に書かれていることだけにする。書かれていないことを推測で補わない。
2. 事実項目とメモの内容が食い違う場合は、事実項目を優先し、「要確認」にして食い違いを書く。
3. 2つ以上に当てはまり、1つに決められない場合は「要確認」にする。無理に選ばない。
4. 「その他」は使わない。どこにも入らない場合は「要確認」にする。
5. 分類の根拠として、メモから該当箇所を短く引用する。引用できない場合は「要確認」にする。

# 出力形式
次の表だけを出力する。解説や提案は書かない。
案件ID | 第1階層 | 第2階層 | 根拠(メモの引用) | 要確認の理由

ポイントは3つある。事実項目を優先することで、見立てに引きずられない。「その他」を使わせず「要確認」に回すことで、AIが迷いを隠して押し込むのを防ぐ。根拠の引用を必須にすることで、人が確認すべき箇所がすぐ見つかる。

図:分類用プロンプトの5つのルール
図:分類用プロンプトの5つのルール

プロンプト2:集計用

集計に渡すのは、人が「要確認」を確定させた後の分類表である。AIの仮分類をそのまま集計に流さない。

# 役割
あなたは確定済みの失注分類表を集計する担当です。
数えること以外はしません。原因の断定、評価、打ち手の提案は書きません。

# 入力
月ごとの分類表(案件ID/第1階層/第2階層/事実項目)

# 集計内容
1. 第1階層(A・B・C)の件数と構成比
2. Bのうち、第2階層(B-1・B-2)の件数
3. 「要確認」だった件数と、確定後の振り分け先
4. 事実項目との突合:Bのうち決裁者と会えていなかった件数、Cのうち最後の商談で次回アポが入っていなかった件数
5. 前月との件数の増減(構成比ではなく件数で示す)

# ルール
- 件数が少ない区分では、割合を強調しない。件数をそのまま書く。
- 増減の理由は推測しない。

# 出力形式
表1枚のみ。

集計表を見て最も多い型を1つ選び、対応する行動を決めるのは人である。プロンプトに「打ち手を提案させる」と書かないのは、提案の量が増えるほど、現場が何を変えればよいか分からなくなるからだ。

プロンプトを使う前の検証

プロンプトは書いただけでは使えない。次の順で確かめる。

図:プロンプトを運用に入れる前の検証5ステップ
図:プロンプトを運用に入れる前の検証5ステップ
  1. 直近の失注を10件選び、人が先に手で分類する
  2. 同じ10件をプロンプト1で分類させ、人の結果と並べる
  3. 食い違った件を見る。AIの誤りではなく、定義文や事実項目の曖昧さが原因であることが多い
  4. 定義文を直し、再度分類させる。食い違いが「要確認」に回るようになれば、運用に入れる
  5. 運用に入れたプロンプトは固定し、変更したら日付と理由を残す

何を数えれば動くのか

分解式でいえば、記録は獲得率(今期ルートも残物件ルートも共通の項)に効く。獲得率そのものは③なので現場に追わせず、手前の行動に落とす。

図:記録を打ち手に変える5ステップ
図:記録を打ち手に変える5ステップ

1. 「失注」の定義を先に決める。 失注の入力が遅れる組織では、失注した案件が「保留」のまま残る。大全でも触れたとおり、次回アポが2週間以内に入っているかどうかは、日付で判定できる基準の候補になる。

2. 記録項目を、分類の階層と事実項目に分ける。 選択式は6〜8項目に収め、「価格」を最初の選択肢に置かない。事実項目は、見立てが入らないはい・いいえで取る。

3. 入力のタイミングと分母を固定する。 失注を確定した時点で、その場で入力する。分母は失注した全件にする。記録しない失注を許すと、記録率の分母が操作できてしまう。

4. プロンプトで仮分類し、「要確認」は人が確定する。 確定した分類表だけを集計に渡す。

5. 月次で打ち手を1つだけ決め、次の期に同じ表で確かめる。 たとえば「追えなくなった(C)」が多いなら、次回アポのその場設定率を置く。打ち手が複数あると、どれが効いたか判別できない。

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単独で追うと何が壊れるか

置いた指標単独で追うと起きること並べる指標
失注理由の記録率(量)入力すること自体が目的になり、先頭の選択肢が選ばれる。AIが自動で埋めた記録も数に入る「要確認」の割合、事実項目の記入率(質)
分類の細かさ(精度)階層を増やしすぎるとAIの振り分けがぶれ、件数も薄くなる第1階層3つ、第2階層2つに固定し、「要確認」と並べる
今期の失注の振り返り(今期)進行中の案件への手当てだけに偏り、来期の残物件の取りこぼしを見落とす前の期に出たNが消えた理由の確認(来期)

受注と失注を並べて比べる

失注だけを眺めても、勝った案件と何が違うかはわからない。受注した案件と失注した案件を並べ、条件(商材・顧客規模・担当エリア・経験年数)を揃えて比べる。差が出る項目だけが、型の候補になる。

注意したいのは、差が出てもそれが原因とは限らないことだ。商談の質を磨いても獲得率が動かない場合、真因は当たるべき相手に当たっていないこと、つまりターゲットにあることが多い。比較の一般論はKPI達成率とKSFとはに委ねる。商談の中身を会話データで見る場合は商談解析AI、パイプライン全体の詰まりは営業パイプライン管理で扱っている。

評価に入れるか、モニタリングにとどめるか

失注件数や失注率は③なので、評価には入れない。入れると、失注を「保留」のまま残したり、失注と記録せずに放置したりする動きが出る。モニタリングして、現場にも開示する。「配らない」と「見せない」は別である。

記録率や入力期限内の割合は、行動なので立ち上げ期は評価に入れてよい。記録が定着したら、記録の量だけでなく、記録から決めた打ち手を実行できたかの2軸に切り替える。ただし、金銭報酬に直結させない。詳しくは営業日報とKPIを人事評価に使うと数字が歪むを参照してほしい。

改善の型(Before/After)

図:失注分析の改善の型(Before/After)
図:失注分析の改善の型(Before/After)

特定企業の数値は出さず、変化の構造だけを書く。

図:改善の型|分類の基準を固定する(Before/After)
図:改善の型|分類の基準を固定する(Before/After)

Before: 失注メモは自由記述。AIへの指示は毎回その場で書く。月ごとに分類の基準が変わるため、集計は比べられない。理由は「価格」に集まり、要約は読まれない。

After: 分類の定義と事実項目を先に決め、プロンプトに固定する。AIは仮分類と件数の集計に絞り、迷った件は「要確認」に回って人が確定する。見る画面は月次の1枚にし、人が最も多い型を1つ選んで行動を置く。翌期に同じ表で比べる。

変わったのは、AIの性能ではなく、分類の基準が固定され、記録が次の行動に接続したこと である。

失敗3パターン

1. 分類の基準を決めずに、AIに任せる。 毎回の分類がぶれて、月ごとの比較ができない。AIが「その他」を作らずにどれかへ押し込むと、モレがあることにも気づけない。

2. AIの原因推定をそのまま採用する。 AIは、もっともらしい原因を断定的に書ける。だがそれは文面から読める範囲の推測で、本当の原因かは確かめられていない。原因を決めるのは人である。

3. 分析して終わる。 集計表は毎月出るが、対応する行動を置かない。出力が増えるだけで獲得率とつながらない②空振りの典型である。

FAQ

Q. 失注の分類は何階層まで作るべきですか。

A. 第1階層3つ、第2階層2つで始める。増やすほどAIの振り分けがぶれ、件数も薄くなる。「要確認」が増えたときだけ、モレている箇所を足す。

Q. 過去の失注メモを、まとめてAIに分類させてもよいですか。

A. 先に10件を人が手で分類し、AIの結果と比べてからにする。定義の曖昧さを残したまま全件を流すと、ぶれた分類が大量に残る。

Q. 失注した顧客に直接理由を聞くべきですか。

A. 聞けるなら有力な材料になる。ただし聞く行為は営業の負担が大きく、答えも建前になりやすい。まず社内で事実項目を揃え、聞くのは型が絞れてからにする。

Q. 件数が少ない組織でもAIに分類させる意味はありますか。

A. 件数が少ないうちは、人が全件を読むほうが確実である。AIが効くのは、件数が増えて手作業の分類が追いつかなくなった段階だ。そのときも、分類の定義は人が先に決める。

まとめ

  • 失注分析のAI活用は、AIに原因を判断させることではなく、人が決めた分類の定義に沿って振り分ける作業を速くすることである
  • 分類は、案件に何が起きたか(A・B・C)で切り、Bだけを機能・非機能に分ける
  • プロンプトは固定し、「その他」を使わせず、迷った件は「要確認」に回して人が確定する
  • 失注件数・失注率は③。評価に入れずモニタリングし、現場にも開示する
  • 月次で打ち手を1つだけ決め、翌期に同じ表で確かめる

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