サマリー
- 業界調査によれば、B2B商談の平均受注率は2024年の29%から2025年には19%まで、1年で大きく低下している。
- 主因として指摘されているのは、営業スキルの低下ではなく、購買側の意思決定に関わる人数(バイイングコミッティー)の拡大である。
- コンサルティングファームの分析では、受注率の改善が企業の増収に直結する度合いも定量的に示されている。
受注率低下のトレンドと構造要因
業界データ:受注率は1年で10ポイント低下
Ebsta × Pavilion「2025 GTM Benchmarks」(商談データ約65万5,000件の分析)によれば、B2B商談の平均受注率は2025年時点で19%となり、2024年の29%から大きく低下したことが報告されている。同レポートは、この背景として購買側の意思決定に関わる人数(バイイングコミッティー)が平均6〜11人、大規模案件では最大17人にまで拡大していることを指摘している。
さらに別の業界調査では、営業担当者が実際の販売活動に使える時間が全体の3〜4割程度にとどまり、残りの多くが非販売業務に費やされているという報告もある。購買側の意思決定構造が複雑化する一方で、営業側が案件ごとに割ける時間は増えていない、という構造的なギャップが受注率低下の背景にあると考えられる。
本稿の「受注率」の定義について
本稿で扱う19%・29%という数値は、商談化した案件のうち受注に至った割合(商談ベース)である。リード数や面談数を分母に取る場合の受注率とは分母が異なるため、自社の数値と比較する際は定義を揃える必要がある。
コンサルレポート:受注率改善のインパクト
McKinsey & Companyの分析では、受注率の10〜20%の改善が、最終的に4〜12%の増収につながるという定量的な試算が示されている。また同社の別の調査では、対面と非対面を組み合わせたハイブリッド営業モデルを採用している企業の57%が市場シェアを伸ばす「勝ち組」に該当する一方、そうでない企業では40%にとどまるという傾向も報告されている。
これらは、受注率が単なる営業現場の指標ではなく、企業の成長率そのものを左右する経営指標であることを示している。
だから、営業組織は何をすべきか
- 受注率の「水準」よりも「トレンド」を追う
- 受注率低下を「営業担当者個人のスキル問題」にしない
- 受注率改善を売上インパクトに換算して経営層に説明する
岩田の視点
受注率が下がっているという数字だけを見ても、打ち手にはならない。実務で効いてくるのは、案件の規模帯によって「誰が関わるか」がまったく変わるという事実のほうだ。
エンタープライズになると、該当部署以外にITや法務といったステークホルダーが一気に増える。担当者と話が通じていれば進んでいた案件が、セキュリティチェックや契約条件の確認という別の関門をいくつも通ることになる。受注率の低下は、営業の腕が落ちたのではなく、通る関門が増えたことの結果として現れている。
やるべきは、関門を洗い出してスクリプトに組み込むこと
ここでMEDDICのような枠組みが効いてくる。ただしフレームワークの名前を知っていることに意味はなく、その中身を商談の中で実際に聞き出せているかが問題になる。具体的には、次の4つだ。
- この案件は、どういうフローで決裁まで進むのか
- そのフローに、誰が関わるのか(部署・役職)
- 誰が反対するリスクがあるのか
- その人に、自分は会えているのか
MEDDICで関門を洗い出す
これを聞き出す質問を、スクリプトに入れる。聞ける関係を作ってから聞くという順序も含めて決める。ここを個々の営業の裁量に任せると、聞ける人と聞けない人に分かれ、その差がそのまま受注率の差になる。
そして、ステークホルダーマッピングを実行度の確認に使う
ステークホルダーマップの記入例
聞き出した内容は、案件ごとのステークホルダーマップとして残す。関与者を並べ、それぞれについて「会えたか/まだか」「賛成か、反対の可能性があるか」を書く。
これがそのまま実行度の確認になる。パイプラインレビューで見るのは、確度や意気込みではなく、このマップが埋まっているかだ。反対する可能性のある人物の欄が空白のまま「受注確度が高い」と言っている案件は、まだ何も見えていない。
受注率という結果指標を眺めるより、マップの空白を潰すほうが速い。
まとめ
受注率の低下は、個々の営業担当者の努力不足ではなく、購買側の意思決定構造が複雑化しているという業界全体の構造変化として捉えるべきである。個人のスキル強化と組織的な対応(マルチスレッディング、受注率トレンドの継続監視)を切り分けて対処することが、実効性のある打ち手になる。
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出典
学術文献
現時点で、本テーマ(受注率のトレンドとその要因)に直接該当する査読済み学術論文は確認できていません。本稿は業界調査およびコンサルティングファームのレポートに基づいています。
コンサルティングファームレポート
- McKinsey & Company, B2B Pulse Survey /「The multiplier effect: How B2B winners grow」/「Growth amid uncertainty」
業界調査レポート
- Ebsta × Pavilion「2025 GTM Benchmarks」
本記事の執筆・監修:50社以上の成長支援を手がけるKPIコンサル・岩田圭弘(Exgrowth株式会社 代表)