本記事は50社以上の成長支援を手がけるKPIコンサル・岩田圭弘が解説します。
毎月、経営会議で予実表が配られる。売上は予算比94%、未達は320万円。担当役員が「下期で取り返します」と答えて、次の議題に移る。翌月も同じ光景が繰り返される。予実管理はやっている。しかし予実表を見て、誰の、何の行動が変わったのかを答えられる会社は少ない。原因は予算の精度でも会議の雰囲気でもない。差異を「1本の数字」のまま扱っていることにある。この記事では、予実差異を4つに分解して持ち主を決める方法、予算・着地見込み・目標という3つの数字を分けて持つ理由、そして月次の締めを待たずに差異を掴む設計を解説する。
予実管理とは(定義と計算式)
予実管理とは、期初に立てた予算(計画値)と実績を定期的に比較し、差異の原因を特定して打ち手を決める管理手法だ。
- 予実差異 = 実績 − 予算
- 予算達成率 = 実績 ÷ 予算 × 100
例えば売上予算5,000万円に対して実績4,680万円なら、差異は−320万円、達成率は93.6%になる。定義はこれだけだ。問題は、この−320万円という数字から何が分かるのか、である。
予実表を見ても数字が動かない理由
予実差異は、ほぼすべてが遅行指標だ。売上・粗利・営業利益の実績は月次の締めで確定する。確定した時点で、その数字を作った行動——商談、見積、値引きの判断、発注——はすでに数週間から数ヶ月前に終わっている。
そのうえで、差異が1本の数字のまま報告されると、さらに2つのことが起きる。
- 原因が混ざったまま報告される:「未達320万円」の中には、件数が足りなかった分と、単価が下がった分と、翌月にずれた分が混在している。混ざったままでは誰が動くべきかが決まらない
- 説明が「言い訳」になる:原因が特定されていないので、報告者は「市況が厳しい」「大型案件が期ズレした」と、自分では動かせない理由を並べることになる。会議は説明の上手さを競う場に変わる
予実表は「どれだけ外れたか」を示すが、「なぜ外れたか」は示さない。なぜを示すのは分解だけだ。レビュー会議を報告会にしない運用の全体像はKPIマネジメントの運用PDCAで扱っているので、本記事は「差異をどう分解するか」の一点に絞る。
3層フレーム上の位置づけと、評価に使ってよいか
予実管理で扱う数字は、KGI(最終)→中間KPI(遅行)→先行KPI(行動)の3層のうち、上の2層にしか存在しないことが多い。これが「締めるまで何も分からない」構造の正体だ。
| 層 | 予実管理で扱う数字の例 | 種別 | 評価に使ってよいか |
|---|---|---|---|
| KGI | 営業利益・売上の予実 | 遅行 | 実績額は使える。予算達成率は予算の決め方次第 |
| 中間KPI | 受注件数・平均単価・粗利率・原価率の予実 | 遅行 | 条件付き。本人が動かせる範囲に限る |
| 先行KPI | 商談数・見積提出数・値引き申請率・発注前の原価見積の予実 | 先行 | 管理に使う。締め前に差異を掴むための計器 |
| 予測の数字 | 着地見込み(フォーキャスト) | 予測 | 使わない。評価に載せると見込みが保守的になる |
特に注意すべきは最後の行だ。着地見込みの精度を評価に載せると、現場は当たる見込み、つまり低めの見込みを出すようになる。見込みは経営判断の材料であって、成績表ではない。3層構造そのものはKGI・KPI・KDIの違いを、評価と管理の分け方はKPIを人事評価に使うと数字が歪むを参照してほしい。
差異を4つに分解して、持ち主を決める(この記事の主役)
予実差異は、少なくとも次の4つに分けて見る。売上で説明するが、原価・経費でも考え方は同じだ。
売上差異 = 数量差異 + 単価差異 + 構成差異 + 時期差異
- 数量差異:件数・数量が計画とずれた分。(実績数量 − 予算数量)× 予算単価
- 単価差異:1件あたりの金額が計画とずれた分。(実績単価 − 予算単価)× 実績数量
- 構成差異:単価や利益率の違う商品・顧客の比率が計画とずれた分
- 時期差異:受注や計上が翌月・翌期にずれた分。会計上は差異ではないが、運用上は最も言い訳に使われるので必ず分ける
冒頭の例で計算してみる。予算は「単価100万円×50件=5,000万円」、実績は「単価90万円×52件=4,680万円」だったとする。
- 数量差異 =(52 − 50)× 100万円 = +200万円
- 単価差異 =(90万円 − 100万円)× 52件 = −520万円
- 合計 = −320万円
1本の数字では「320万円足りない」だった。分解すると、件数は予算を超えており、未達の原因はすべて単価にあることが分かる。「下期は件数を増やして取り返します」という打ち手は、この場合まったくの的外れだ。見るべきは値引きの承認プロセスである。
5ステップで分解を運用に組み込む
Step 1:予算を「掛け算の式」で立てる
予算を金額の1行で持っている限り、差異は分解できない。売上なら「件数×単価」、原価なら「数量×単価」、人件費なら「人数×1人あたり単価×時間」の形で予算を立てる。分解の設計はKPIツリーの作り方と同じ考え方でよい。
Step 2:差異の種類ごとに「持ち主」を決める
差異は種類によって、動かせる人が違う。ここを決めないまま会議を開くから、全員が「自分の担当外の理由」を説明することになる。
| 差異の種類 | 主な持ち主 | 紐づける先行KPI |
|---|---|---|
| 数量差異 | 営業・マーケティング | 商談数・見積提出数・商談化率 |
| 単価差異 | 営業責任者・価格決定者 | 値引き申請率・値引き承認額・定価提示率 |
| 構成差異 | 事業責任者・商品企画 | 重点商品の提案比率・重点顧客層の商談比率 |
| 時期差異 | 営業責任者 | 受注予定日の変更回数・決裁日程の確認率 |
| 原価の数量差異 | 製造・調達 | 工程別の歩留まり・手戻り件数 |
| 原価の単価差異 | 調達・購買 | 相見積の実施率・発注前の原価見積の実施率 |
Step 3:先行KPIにも計画値を置く
予実管理が「締めるまで分からない」のは、計画値を結果指標にしか置いていないからだ。売上予算が「件数×単価」で立っているなら、件数の手前にある商談数にも月ごとの計画値を置ける。先行KPIの予実を週次で見れば、売上の差異が確定する数週間前に、どの差異が発生しそうかが分かる。
Step 4:月次の会議では「差異の種類」から話す
会議の冒頭で読み上げるのは「売上94%」ではなく、「数量+200万円、単価−520万円」だ。こうすると議論は自然に持ち主の話になり、次の打ち手も持ち主が決める形になる。
Step 5:時期差異は「翌月に本当に来たか」を追跡する
「期ズレ」は予実管理で最も便利な言い訳だ。時期差異として分けた案件は一覧にして、翌月・翌々月に実際に計上されたかを必ず追う。追跡すると、期ズレと呼ばれていた案件の一部は実質的な失注だったと分かる。追跡しない時期差異は、失注を先送りする装置になる。
3つの数字を分けて持つ:予算・着地見込み・目標
予実管理が「当てにいく予算」を生むのは、性質の違う数字を1本にまとめているからだ。次の3つは別物として持つ。
| 数字 | 役割 | 更新頻度 | 外れたときの意味 |
|---|---|---|---|
| 予算 | 資源配分の前提。採用・投資・経費枠の根拠 | 原則として期中固定 | 前提が崩れた。資源配分を見直す合図 |
| 着地見込み | 今のまま進んだら期末にどこへ着くかの予測 | 毎月(できれば隔週) | 予測が外れた。見込みの作り方を見直す |
| 目標 | 組織として取りにいく水準 | 期初に設定 | 挑戦が届かなかった。打ち手の検証材料 |
予算と目標を同じ数字にすると、予算は「達成を約束させられる数字」になり、現場は届く水準を出しにいく。予算と見込みを同じ数字にすると、期中に見込みが悪化しても「予算は変えられない」ので、悪い情報が経営に上がるのが遅れる。
3つを分けておけば、見込みが予算を下回った瞬間に「どの差異の種類で下回っているか」を議論できる。予算は資源配分の前提として守り、見込みは正直に更新し、目標は挑戦として掲げる。営業ノルマの水準をどう決めるかは営業ノルマの決め方で扱っているので、あわせて読んでほしい。
単独で追うと何が壊れるか(トレードオフ)
予実管理で追う数字には、ほぼ必ずトレードオフの相手がいる。単独で追うと、相手側が静かに壊れる。
| 単独で追う指標 | 壊れるもの | ペアで置く指標 |
|---|---|---|
| 予算達成率 | 予算の挑戦度(低めの予算が出てくる) | 予算の前年比・市場成長率との比較 |
| 売上の予実 | 粗利(値引きで件数を作る) | 単価差異・粗利額の予実 |
| 経費予算の消化率 | 経費の効率(期末に使い切る) | 経費1円あたりの成果(商談単価・獲得単価) |
| 着地見込みの精度 | 見込みの正直さ(保守的な見込みが出る) | 見込みの下方修正が出たタイミングの早さ |
| 月次の予算達成 | 翌月の売上(受注の前倒しと押し込み) | 時期差異の追跡一覧・翌月初の受注残 |
特に経費予算は見落とされやすい。「予算内に収めたか」だけを見ていると、期末に余った予算を使い切る行動が合理的になる。使い切らないと翌期の予算が削られるからだ。経費は予実ではなく、使った結果として何が得られたかとペアで見る。

