月曜の営業会議で、FSがこぼす。「先週ISから渡されたアポ、半分は話が噛み合わなかった」。一方のISは言う。「アポは目標どおり取っている。その後どうなったのか、こちらには何も返ってこない」。
どちらも嘘をついていない。数字の上では、ISはアポ数を達成し、FSは訪問数を達成している。それなのに、受注につながる商談が増えない。
この記事では、ISからFSへの引き継ぎで何を渡すか、FSからISへ何を返すか、そしてISとFSで評価の置き方がなぜ違うのかを整理する。ISのKPI体系そのものはインサイドセールスKPIに、展開F/Nの設計はフィールドセールスKPI設計に委ね、ここでは両者の境目だけを扱う。
引き継ぎとは何か:項目の受け渡しではなく、判断の受け渡し
引き継ぎは、顧客情報をCRMに入力してFSに通知する作業だと思われがちだ。だが、FSが本当に必要としているのは、入力された項目の一覧ではない。「ISはなぜこの会社のアポを取ったのか」という判断である。
よくある誤解は、引き継ぎ項目を増やせば品質が上がるという考えだ。項目を増やすと、ISは聞き出すことが目的になり、相手が答えにくい質問を重ねてアポそのものを逃す。項目は埋まっているのに、肝心の「なぜ今この相手なのか」は誰にも書かれていない、という状態が生まれる。
よく追われている指標と、それが空振りする理由
ISとFSの間で一般に追われる指標は、次の3つになりやすい。
- ISのアポ数:数字は作りやすい。ところが温度感の低い相手にもアポを設定する行動が増え、FSは無駄足を踏み、ISのアポを信用しなくなる
- FSの訪問件数:訪問したという事実は残るが、そのアポが良かったのかどうかはISに伝わらない
- 引き継ぎ項目の記入率(全項目を必須にする運用):埋めること自体が目的になり、答えをもらえなかった項目に「不明」を並べて通過させる
どれも、ISとFSが別々の数字を追っている。引き継ぎの失敗は、この分断から起きる。
大全の判定で仕分ける
営業KPI大全の判定に当てはめると、ISとFSの間で使われる指標は次のように分かれる。
| 指標 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| アポ数(有効の定義なし) | ② 空振り | 増やしても受注に接続しない。対象と条件が定義されていないと、取りやすい相手に流れる |
| アポ数(有効アポの定義あり) | ①-A 刈り取り型(先行指標として見る) | ISが動かせて、手前の転換を示す。ゴールには置かない |
| 引き継ぎの仮説記入率(渡した全件のうち、アポの仮説が書かれている割合) | ①-A 刈り取り型 | 分母が渡した全件で固定されており、絞れない。ISが今日から選べる行動 |
| 訪問結果の返却率(訪問した全件のうち、結果をISに返した割合) | ①-A 刈り取り型 | 分母が訪問した全件で固定されている。FSが今日から選べる行動 |
| 展開件数(ISの評価として) | 評価に入れてよい | 展開かどうかを判定するのはFSという他人であり、IS本人が操作できない |
| 展開F件数・展開N件数(FSの評価として) | ③ 結果(評価に入れない・モニタリング) | 展開かどうかを判定するのがFS本人であり、操作できてしまう |
| 展開率 | ③ 結果(診断用) | 合成された率。評価には入れず、診断に使う |
| IS起点の受注金額 | ③ 結果(モニタリング・ISにも開示) | ISが直接動かせない。評価ではなく、アポの質を振り返るために追う |
この表で一番大事なのは、同じ展開件数が、ISでは評価に入れてよく、FSでは入れてはいけないという点だ。次の章で理由を説明する。
展開件数は、「誰が判定するか」で評価に入れるかが決まる
大全では、展開F件数・展開N件数・展開率を③結果KPIとして整理した。評価には入れず、モニタリングする数字だ。その理由は、展開かどうかを判定するのがFS本人だからである。
FSは面談の結果を、展開F、展開N、不発のどれに分類するかを自分で決められる。評価に入れれば、基準を緩めて展開に数える、期末にNをFに留める、といった動きが出る。FSの展開は本人が操作できるので、評価に載せてはいけない。
ところがISにとって、展開件数の事情は逆になる。ISが渡したアポが展開になるかどうかを判定するのは、FSという他人である。ISは展開の判定を操作できない。だから、ISの評価には展開件数を入れてよい。
| FS | IS | |
|---|---|---|
| 展開を判定する人 | 本人 | FS(他人) |
| 本人が操作できるか | できる | できない |
| 評価に入れてよいか | 入れない(モニタリング) | 入れてよい |
判定軸は、大全の「率の原則」と同じ考え方である。数字を決める人が本人なら、その数字を評価に載せると操作が起きる。決めるのが他人なら、本人は行動で動かすしかない。
ただし、この評価が成り立つには前提がある。FSの判定が公正であることだ。何をもって展開とするかの基準をFSと文書で合意し、判定の結果と理由をISに返す。判定がブラックボックスのままだと、ISは評価制度そのものを信用しなくなる。この返し方が、次に述べる「FSからISへの返却」である。
何を渡し、何を返せば動くのか
ここがこの記事の主役である。
ISがFSに渡すもの:項目の一覧より先に、アポの仮説
ISがFSに渡す情報のうち、最も価値があるのは、なぜその会社のアポを取ったのかという仮説である。
事前の聞き出しがほとんどできていなくても、仮説があれば商談は成立する。たとえば、他社で大きな導入実績があり、その会社の社長に当てられるなら、それだけで十分に価値がある。逆に、事前情報の聞き出しにこだわってアポを逃すくらいなら、一定は臨機応変に進めたほうがよい。
そのうえで、項目の側は点数化して渡すと運用しやすい。たとえば次の3つを基準にする。
- ターゲット軸:自社が取りたい相手(たとえば大手企業)に当たるか。当たるなら点数が付く
- BANT情報:聞き出せた内容に応じて点数が付く
- 決裁者かどうか:相手が決裁に関わるか
これらを野球のたとえ(ポテンヒット、スリーベース、ホームラン)のような段階に束ねて、アポの手応えをFSが一目で分かる形にしておく。点数の配分や閾値は、自社のターゲットと商材に合わせて決める。
なお、反響型(インバウンド中心)か、新規開拓型(アウトバウンド中心)かで、押さえどころは変わる。
| 反響型(インバウンド中心) | 新規開拓型(アウトバウンド中心) | |
|---|---|---|
| 渡す中身の中心 | BANTなどの聞き出し内容 | なぜこの会社に当てたかの仮説 |
| 聞き出しの扱い | 基本として押さえる | 聞き出しすぎてアポを逃さない。臨機応変に |
| 空欄の扱い | 空欄はFSの最初の確認事項になる | 空欄でも仮説があれば商談は成立する |
BANTの項目をどう使うか、答えをそのまま書き込む欄にしてはいけない理由はBANT・MEDDICの記事に委ねる。ここで言いたいのは、項目が埋まっているかより、仮説が書かれているかを先に確かめるということだ。
FSがISに返すもの:訪問結果は必ず返す
逆方向の返却が、多くの組織で抜けている。
FSの訪問結果とフィードバックは、必ずISに返す。返す手段は、CRM上の通知でも構わない。形式の立派さは問わないが、返すこと自体を省いてはいけない。
返却がないと、ISは「そのアポは組んで良かったアポだったのか」を判断できない。判断できなければ、良いアポを増やす方向に行動を寄せられない。ISとFSが分断されたまま、アポの質は上がらない。
返す内容は、最低でも次の3点に絞るのが現実的だ。
- 展開(F/N)になったか、不発だったか
- その理由(選択式で数項目。自由記述にしない)
- ISが渡した仮説は当たっていたか
返却の頻度や項目数を増やしすぎると、FSの負担になって続かない。続くかどうかを先に決めて、項目を絞る。

