週次の営業会議の前夜、SFAの案件画面に入力が集中する。確度の欄はほとんどが「B」、受注予定日は期末の最終日にきれいに揃っている。導入説明会から3ヶ月、入力率は下がり続け、マネージャーは結局Excelで別の集計表を作り直している。
この状態を「現場の入力意識が低い」と片づけると、同じことが次のツールでも起きる。入力が止まる原因は、ツールの操作性でも現場の意識でもない。SFAに何を数えさせるかを決めないまま、ツールを入れたことにある。
この記事では、SFAに入れるべき項目を営業KPI大全の判定で仕分け、入力が本人の次の行動に返ってくる設計を解説する。
SFAとは
SFA(Sales Force Automation/営業支援システム)とは、案件・商談・顧客接点を記録し、営業活動の進み具合を組織で共有するための仕組みである。顧客情報の管理を主目的とするCRMと重なる部分も多く、実際には一体の製品として提供されることが多い。
よくある誤解は1つだけ押さえればいい。「SFAを入れれば営業が可視化される」は誤りである。 可視化されるのは、入力されたものだけだ。何を入力させるかを決めていないSFAは、既定の項目がそのまま並んだ、誰のためにもならない入力フォームになる。
本記事では製品の比較や機能の説明はしない。扱うのは、どのSFAを使っても避けて通れない「何を数えるか」の設計だけである。
入力が止まる本当の理由
SFAの入力が止まる会社には、共通する構造が3つある。
1. 入力項目の主役が「見立て」になっている
確度(A/B/C、受注確率◯%)、受注予定金額、受注予定日。多くのSFAで、案件画面の最も目立つ位置にあるのはこの3つだ。だがこれらはすべて、担当者の見立てである。見立ては書き換えられる。期末が近づけば予定日は後ろにずれ、会議で詰められそうな案件の確度は静かに下がる。見立てを入力させている限り、SFAの数字は実態ではなく担当者の予想と都合を集計したものになる。
2. 入力した数字が、本人に返ってこない
入力された確度や予定金額は、上長の会議資料には使われる。だが担当者自身の明日の行動は、何一つ変わらない。本人から見れば、SFAへの入力は「上に報告するための作業」でしかない。報告のためだけの入力は、報告の直前にまとめて行われる。会議の前夜に入力が集中するのは、このためだ。
3. 「入力率」そのものがKPIになっている
入力が止まると、多くの組織は入力率を目標に置く。すると現場は、項目を埋めることに最適化する。自由記述欄には「継続フォロー」と書かれ、選択肢はいつも同じものが選ばれる。入力率は上がり、中身は空洞化する。
入力を仕事に役立つ形で循環させる一般論はKPIを武器にする実践論で扱った。本記事では、その前段にある「どの項目を置き、どの項目を置かないか」に絞る。入力率の低下を「入力」と「活用」の2軸で診断するワークシートは、資料「SFAを入れたのに、誰も入力しなくなった。」にまとめている。
SFAで追いがちな数字を、営業KPI大全の判定で仕分ける
判定の軸は営業KPI大全と同じである。本人が動かせるか、それが動くと売上(粗利)が動くか。この2つの問いに時間軸を加えた5つの箱で、SFAに登場しがちな数字を仕分けると次のようになる。
| SFAで追いがちな数字 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| SFA入力率(項目の充足率) | ② 空振り | 埋めても商談は進まない。中身を問わないので、埋めるための入力が増える |
| 案件登録件数 | ② 空振り | 登録すれば増える。確度の低い案件の登録を促すだけになりやすい |
| パイプライン金額(確度加重を含む) | ② 空振り | 金額も確度も主観で書ける。最も水増しされやすい |
| 活動ログ件数(対象の定義なし) | ② 空振り | 対象が決まっていなければ、記録しやすい相手との接触が増える |
| 確度ランク別の案件件数表 | ④ 飾り になりやすい | 毎週集計して報告するだけで、どの打ち手につなぐかが決まっていないことが多い |
| 決裁者同席率 | ①-A 刈り取り | 面談記録に同席の有無を1項目持てば出る。同席を取りにいく行動は本人が選べる |
| 次回アポのその場設定率 | ①-A 刈り取り | 商談終了時点で次回予定日が入っているかの1点で判定できる |
| 失注理由の記録率 | ①-A 刈り取り | 分母が失注した全件で固定されるので、絞って上げることができない |
| 申請化数 | ①-A 刈り取り | 残物件を顧客社内の予算申請に乗せる行動。本人が動かせる |
| 既存顧客への定例接触実施率 | ①-B 先行 | 今期には効かないが来期の案件を生む。今期の評価とは別枠で見る |
| 展開F件数・展開N件数・展開率 | ③ 結果 | 評価に入れずモニタリングする。現場にも開示する |
| N消滅数 | ③ 結果(必ず見る) | クローズされた案件は集計画面から消える。数える欄がなければ誰も気づかない |
| 獲得率・受注件数・粗利 | ③ 結果 | 経営が見る数字。現場に追わせると分母を守る動きが出る |
表を見ると分かるとおり、SFAの既定の画面で目立つ数字の多くは②か④に入る。 逆に①の行動は、SFAに1項目足すだけで取れるものがほとんどだ。決裁者が同席したか、次回予定日が入っているか、失注理由が選ばれているか。いずれも事実であって、見立てではない。
何を数えれば動くのか:事実と日付だけを入力させる
ここが本記事の主役である。原則は1行で書ける。
SFAに人が入力するのは、①の行動が起きたという事実と、その日付だけ。③の率や件数は入力させず、事実から計算で出す。
確度や予定金額を入力欄から消せ、という話ではない。それらを必須にせず、主役から外すということだ。見立ての欄をどれだけ精緻にしても、書き換えられる数字は書き換えられる。一方で「決裁者と面談した日」は、期末に都合よく動かすことが難しい。日付は捏造しづらい。 大全でパイプライン金額の直し方として書いた「ステージ通過の実績日付で管理する」を、SFAの項目設計に落とすとこうなる。
分解式のどこに効くか
大全の分解式に当てると、SFAに持つべき「事実の欄」は2つのルートに分かれる。
今期ルート = 面談数 × 展開F率 × 獲得率
残物件ルート = 残物件数 × 獲得率
| ルート | SFAに持つ事実の欄 | 効く項 |
|---|---|---|
| 今期ルート | 面談日、決裁者同席の有無、面談結果(展開F/展開N/不発)、次回予定日 | 展開F率・獲得率 |
| 残物件ルート | 残物件としての持ち越し、申請に乗った日、申請通過日、申請獲得日 | 申請化数・残物件の獲得 |
| 両ルート共通 | クローズ日とクローズ理由(選択式) | N消滅数・失注理由の記録率 |
展開F/展開N、残物件の定義そのものはフィールドセールスKPI設計と大全に委ねる。SFA側で押さえるべきは、面談結果を「展開F/展開N/不発」の選択肢として持つこと、そしてNの案件を閉じずに、次の期の残物件として持ち越せる状態にしておくことの2点である。Nを「保留」のまま放置するか、クローズして消すかの二択しかないSFAでは、残物件ルートがそもそも数えられない。
導入の手順
- 分解式を先に書く。 自社の粗利がどのルートで積み上がっているかを確認し、各項に効く①の行動を決める。SFAの画面を開くのはこの後である
- その行動が起きたかを「事実+日付」で記録する欄だけを作る。 確度・受注予定金額・受注予定日は必須から外す。残す場合も、会議の主役にはしない
- ③の数字は入力させない。 展開率も獲得率も、面談結果とクローズ理由から自動で計算する。人に率を入力させた瞬間、その率は作られる
- 本人の一覧画面を「次にやること」の画面にする。 次回予定日が空の案件、次回予定日を過ぎた案件、今期まだ申請に乗っていない残物件。入力した事実が、翌朝の自分の行動リストとして返ってくる形にする。上長の会議資料は、この画面の集計で足りる
- 四半期ごとに項目を棚卸しする。 その四半期の会議で一度も使われなかった項目は、必須から外すか削る。項目は放っておくと増える一方で、減らす工程を持たない限り入力の負担は膨らみ続ける
手順4が、入力が止まる理由の2つ目への直接の答えになる。入力が本人に返ってくるとは、励ましやランキングのことではない。自分が入力した事実から、自分の明日の行動が決まることである。
活動の記録(訪問の事前・事後、面談人数や役職のコード化)の項目設計は、営業日報は何のためにあるのかが本体なので、ここでは繰り返さない。本記事が扱うのは、日報で記録した事実を受け止める「案件の器」の側の設計である。日報とSFAに同じことを二重に書かせないことも、この器の設計に含まれる。
入力そのものを評価に載せてよいか
導入直後は、入力そのものを評価に載せてよい。入力は本人の意思でこなせる行動であり、評価に載せて初めて習慣になる。ただし定着した後も入力の量だけを見続けると、手順の3つ目で書いた「埋めるための入力」が始まる。定着後は、入力の量と、その入力を経由して商談が前に進んだかの2軸に切り替える。行動量を評価に使う考え方の全体像は営業日報は何のためにあるのかとKPIを人事評価に使うと数字が歪むにまとめてある。
単独で追うと何が壊れるか
SFAの項目は、ペアで置かないと片方が壊れる。
| 単独で追う数字 | 起きること | ペアで置く数字 |
|---|---|---|
| 面談記録の件数(量) | 記録しやすい既存客との短い接触が増える | 決裁者同席率(質) |
| 展開F件数(今期) | 期末に、本来Nに流すべき案件をFに留める | 残物件の申請化数(来期) |
| 入力の網羅(項目の充足) | 中身のない入力で埋まる | 入力の鮮度(面談日から記録日までの日数) |
| 項目の細かさ | 選択肢が増えすぎて、同じ事実が人によって別の選択肢に入る | 選択肢の定義書と、四半期ごとの棚卸し |
特に3行目は見落とされやすい。会議の前夜にまとめて入力された記録は、網羅されていても鮮度がない。 面談から記録までの日数を並べて見れば、「前夜のまとめ入力」はその場で見える。

